「会いに行けるアイドル」たち コロナ禍も活動多角化で生き残り
昨年春の緊急事態宣言から1年。かつて国民的アイドルのAKB48などを生み出した「会いに行けるアイドル」たちの苦境は今も続く。ライブハウスでの活動こそが最も輝く瞬間だったが、新型コロナウイルス禍の今、配信や通販などオンラインに突破口を見いだそうとする動きも。多角化するアイドル活動に専門家は「さまざまなグループが知恵を絞って、アイドルの新時代を迎えている」と話す。(三宅令)
今月、都内で行われたライブアイドルのイベント。教室のように等間隔に並べられたいすにファンが着席し、ステージに向かって無言でペンライトを振っていた。拍手のみ、声掛けは禁止だ。「ちょっとシュール」と、ファンの男性は話す。「親密感がなくなり、離れたファンもいる」
緊急事態宣言が解除されても、大勢で盛り上がることには自粛が求められ、業界には苦しい状況が続く。
ライブアイドルとは、ライブやコンサートを中心に活動する「会いに行ける」アイドルだ。地下アイドルやインディーズアイドルと呼ばれることも。AKB48もスタートはここだった。
主な収入源はチケット料(2千~3千円)のほか、ライブ後に行われるチェキ撮影(好きなアイドルと写真に納まれるサービス、1枚千円~)など。コロナ禍以前の活動について、ある運営関係者は「メンバーの手取りは1日1万円くらい。週3~5日稼働するグループが多かった」と振り返る。「それがコロナ禍で全中止。今は稼働が戻りつつあるが、収容人数の制限と接触禁止が痛い」。撮影もファンとの間にアクリル板を挟んで行い、会場での売り上げは落ちた。
「かつては“本気の恋愛”のような営業が王道で、特典会(握手やチェキ、サイン会などの交流イベント)を上手にこなせる子が目立っていたが、今は違う」と話す。
■音楽中心の活動に
「ライブ中心で動いていたのが、作品中心の活動になった」と話すのは、平成26年にデビューした宇佐蔵(うさくら)べにさん(22)。「1年前までは毎日、レッスンかイベントがあったのに突然ゼロになって。『作品を作るしかない!』と」。毎月のように曲を作り、CDをオンラインショップで販売し、音源を音楽定額配信サービス(サブスク)に提供している。また、自身がデザインした衣服やグッズを通販展開。「音楽やデザインができるのが強み。違う自分にアップデートするためのチャンスだと考えている」と話す。
「むしろ『歌を聞かせる』ことが評価されるようになってよかった」と話すのは、27年にデビューした鈴木花純(かすみ)さん(26)。自身のライブではコロナ禍以前から、着席で声出し禁止だったという。歌唱力で勝負しており、場を盛り上げることを重要視する従来のライブアイドルの中では“異端”のスタイルを貫いてきた。コロナ禍でチケット代を値上げした分、チェロなど楽器の生演奏とともに歌うなど、接触ではなく「ステージパフォーマンスを工夫し、ファンに報いたい」とする。
■アイドル文化は不滅
2人ともライブでは配信も行い、人数制限の壁を乗り越えようとしている。
業界に詳しい上武大の田中秀臣(ひでとみ)教授(経済学)は「業界のビジネスモデルを変えるような革命的な流れはないが、アイドルそれぞれが知恵をしぼって活動を続けている」と俯瞰(ふかん)する。家にいながら仮想空間でライブ参加できるサービス「SHOWROOM(ショールーム)」や、画面上でアイドルと1対1の仮想特典会ができるアプリ「チェキチャ!」など、オンライン対応も充実してきた。若いアイドルたちはその利用も器用にこなす。「変化を受け入れながら、ライブアイドル文化は生き残るだろう」と話した。