宇宙開発のボラティリティ

イーロン、ベゾスに勝利し狂喜乱舞 最新宇宙ニュースの「深層」

鈴木喜生

 宇宙探査におけるビッグプロジェクトが数多く予定されている2021年。とくにこの4月には宇宙開発を大きく進展させるイベントが続いてます。その主役となるのは、月着陸船のコンペに勝利したスペースX社と、史上初の火星探査ヘリを成功させたNASAのJPL(ジェット推進研究所)。さらに、4月22日(木曜)には星出彰彦氏がISSの船長として打ち上げられ、その一週間後には野口聡一氏が地球へ帰還します。

 今回はこれらの宇宙開発をめぐるビッグニュースの概要をわかりやすく解説します。

News01:NASAが巨大イカ「スターシップ」を月着陸船に選定

 4月16日(日本時間)、NASA(米航空宇宙局)はアルテミス計画で使用する有人月面着陸船の開発メーカーとしてスペースX社を選定しました。2024年に4人のクルーを月周回軌道へ送り込み、うち2人を月面に降下させようとしていますが、その月着陸船として、イーロン・マスク氏が主宰を務めるスペースXの、巨大イカのような形状が特徴的な宇宙船「スターシップ」の採用を決定したのです。

▼ベゾス敗れる マスクが3100億円の受注

 NASAは近年、宇宙機の開発製造を民間企業に数多く委託していますが、今回の月着陸機の選定は在米の民間企業3社によるコンペ方式とされ、その候補にはアマゾンの創始者であるジェフ・ベゾス氏率いるブルーオリジン社と、防衛関連メーカーとして名高いダイネティクス社も挙げられていました。

 とくにブルーオリジン社はその開発において、宇宙開発や防衛軍備に長けたコングロマリットであるノースロップ・グラマン社やロッキード社と提携し、スペースX社にとっては手ごわい競合相手になることが予想されていましたが、結果、受注した際の提示金額がもっとも低いスペースX社がその権利を勝ち取りました。この契約によってスペースX社は28億9000万ドル(約3100億円)の契約金を受け取ります。

▼なぜスターシップが選ばれたのか

 スターシップの最大の特徴は、機体サイズと輸送能力が他の宇宙機と比べて桁違いに大きいこと。そして、他社の月着陸船が主船から切り離されて運用される専用船なのに対し、スターシップはそれ自体が主船であり、そのまま月面に着陸する仕様であること。さらに、地球や月面に着陸するときのマニューバ(機体の動き)が非常に特殊なことにあります。

 今回候補となった3社の月着陸船を見てみると、ダイナティクス社の着陸船は全高が4.5m(パネル含まず)、ブルーオリジン社が9.3mなのに対し、スターシップは50m。他社の月着陸船とスターシップの設計コンセプトがまったく違うことが理解できます。

 歴代の有人宇宙船と比較してみても、アポロ宇宙船(CM:司令船+SM:機械船)の定員が3名、NASAが開発中の新型宇宙船「オリオン」は4名、スペースシャトルが7名だったのに対し、スターシップの最大搭乗可能人数はなんと100名。無人であれば最大ペイロード(積載量)は100トンであり、スペースシャトルの24.4トン(LEO:地球を周回する低軌道の場合)と比較しても、いかにこのスターシップが巨大かが分かります。

 一般的な宇宙船が地球に帰還する際には、クルーが搭乗するわずか十数トンのカプセルだけが切り離されて大気圏に再突入しますが、スターシップは宇宙を航行するそのままの形で地球へ帰還します。スペースシャトルも同様の運用方法が採られていましたが、そのオービター(宇宙船本体)は全長が37.2m。つまり、シャトルよりも34%も大きな宇宙船がそのまま大気圏に突入し、垂直に着陸することになります。

 この大型宇宙船を大気圏外まで運ぶのが、同じくスペースXが開発中の超大型ロケット「スーパーヘビー」です。スーパーヘビーの上部にスターシップを接続した際の全高は120mにもなり、アポロ宇宙船を打ち上げた史上最大のロケット「サターンV」(110.6m)をはるかにしのぎます。現在はテスト打ち上げに向けて、スーパーヘビーの組み立て作業も進められています。

 スターシップの低高度(10km)へのテスト打ち上げは昨年末から行われていますが、その様子はYouTubeにアップされています。これを観れば、水平な状態で降下し、着陸直前に垂直に立て直すマニューバ(機体挙動)の特殊性が理解できます。

【スターシップSN10のテストフライトの動画】

 スターシップのプロト機はこれまでに計4機が打ち上げられましたが、SN8、SN9、SN11の3機はすべて着陸時に爆発炎上。SN10は着陸にほぼ成功しましたが、その際、機体に不具合が発生し、着陸の約5分後に地上で爆発炎上しています。

 次回テスト機はスターシップSN15になりますが、その打ち上げは4月22日(木曜)の午前5時(日本時間、執筆時の情報)に予定されていて、その様子はスペースX社のYouTubeチャンネルで確認できます。

News02:NASAのヘリ、史上初めて火星での飛行に成功

 火星に送り込まれた探査ヘリコプター「インジェニュイティ」が4月19日(日本時間)、史上初となる火星でのフライトに成功しました。動力を搭載した探査ヘリが地球以外の天体で飛行したのは、これが初の事例となります。

 インジェニュイティは、探査ローバー「パーシビアランス」(またはパーセヴェランス)の機体下部に搭載された状態で、今年2月19日(日本時間)に火星に着陸。その後、パーシビアランスから分離されて火星地表に設置され、二重反転ローターの頂部に搭載されたソーラーパネルで充電しつつ、NASAの一機関であるJPL(ジェット推進研究所)によって事前テストが繰り返されていました。

 テストフライトが開始されると、インジェニュイティは高度3mまで上昇し、約30秒間ホバリングして無事着陸。今回のテストでは上昇、ホバリング、降下着陸のみが実施されましたが、今後は水平移動も試験される予定であり、最終的にはパーシビアランスが探査すべき地表を上空から探索・撮影する役割を果たします。

【インジェニュイティのテスト飛行映像】

▼火星でヘリを飛ばすことが、なぜ難しいのか?

 火星の重力は地球の約3分の1ですが、大気密度は地球の地表の1%しかありません。その空間にヘリを飛ばすには、機体を可能な限り軽量に仕上げ、ブレード(回転翼)の翼型をもっとも効果的なものにする必要があります。

 また、火星の地表に届く太陽光は地球の約半分しかなく、そのため効率の良いソーラーパネルであっても、ある程度の面積が必要になります。一方で、火星地表は夜間には摂氏マイナス90度まで下がるため、とくに電子機器などが凍って損傷する可能性があり、それを回避するためにはヒーターを搭載する必要があります。

 火星と地球の間では通信に20分以上かかるため、飛んでいる機体を地球から制御することができません。そのためインジェニュイティには自立航行するためのカメラとセンサーなど数々の航法装置が搭載されています。

 ソーラーパネル、ヒーター、航法装置の搭載は、機体質量の増加を意味します。しかし、こうした必須機器をすべて搭載したインジェニュイティの質量は、わずか1.8kg。これほどコンパクトで軽量な機体が、自ら充電し、過酷な環境で浮き上がるたけの推力を生み出し、自立的に飛び、地表にある岩石分布を分析しながら撮影する能力を秘めています。かつて惑星探査機ボイジャーの開発運用も実現してきたJPLは、その高い技術力で知られていますが、このインジェニュイティの開発には6年の歳月が費やされています。

News03:2人目の「日本人ISS船長」、22日に打ち上げ

 4月22日(木曜)には、星出彰彦氏が搭乗するクルー・ドラゴン(Crew-2)がISS(国際宇宙ステーション)に向けて打ち上げられます。星出氏にとっては2008年、2012年に続いてこれが3度目のフライトで、滞在中はISSの船長(コマンダー)を務めます。日本人としてISSの船長を務めるのは若田光一氏(2013年)についで2人目であり、NASAのこの人選は、近年の日本人宇宙飛行士がその存在感を強めていることの証とも言えます。

 打ち上げの様子はYouTubeのNASAチャンネル、またはJAXAチャンネルで、リアルタイムで視聴可能。打ち上げ時間は日本時間の19時11分に予定されています。

【星出彰彦氏の打ち上げライブ配信】

▼NASA YouTubeチャンネル

▼JAXA YouTubeチャンネル

4月22日(木曜) 18時15分配信開始

 そして現在ISSに長期滞在中である野口聡一氏は、その任務を星出氏に引き継ぎ、同29日(木曜)に地球へ帰還します。この間、日本人ふたりがISSに同時に滞在することになりますが、これは2010年、野口氏(ソユーズTMA-17)と山崎直子氏(STS-131)がISSに同時滞在して以来12年ぶり、2回目のこととなります。

 有人月探査の再開、火星探査、日本人宇宙飛行士の活躍など、歴史に残る宇宙関連ニュースが連日のように飛び込んできますが、2021年においては今後もさらに大きなビッグプロジェクトが数多く予定されています。アポロ計画、スペースシャトル計画、ISS計画などを経て、宇宙開発はいま、まったく新しい局面を迎えているのです。

出版社の現役編集長。宇宙、科学技術、第二次大戦機、マクロ経済学などのムックや書籍をプロデュースしつつ自らも執筆。趣味は人工衛星観測。これまで手掛けた出版物に『宇宙プロジェクト開発史大全』『これからはじまる科学技術プロジェクト』『零戦五二型 レストアの真実と全記録』『栄発動機取扱説明書 完全復刻版』『コロナショック後の株と世界経済の教科書』(すべてエイ出版社)など。

【宇宙開発のボラティリティ】は宇宙プロジェクトのニュース、次期スケジュール、歴史のほか、宇宙の基礎知識を解説するコラムです。50年代にはじまる米ソ宇宙開発競争から近年の成果まで、激動の宇宙プロジェクトのポイントをご紹介します。アーカイブはこちら