新時代のマネー戦略

会社員と自営業者の差は大きい 病気やけがで働けなくなるリスク、想定できていますか?

小松英二

 新型コロナの感染拡大が続き、収入をめぐる環境は厳しい状況にあります。不安定な生活が続くなかで、持病の悪化などで仕事が続けられなくなったらどうしよう、といった心配をお持ちの方も少なくありません。脳梗塞や脳出血などの脳血管疾患による機能障害で働けなくなった場合、入院や治療にかかった費用は医療保険でカバーできるとしても、日常の生活費や子育ての出費などまではカバーしてくれません。

 そこで今回は、病気やけがなどにより長期間働けなくなるリスクに対して、家計の備えを考えていきたいと思います。

「いま自分が働けなくなったら…」 公的な保障の確認が第一歩

 この頃のFP(ファイナンシャルプランナー)相談において「病気やけがで働けないときの生活費の備え」が少なくありません。深田さん(仮名、39歳)もそんな相談者の一人です。

【深田さん(39歳・自営業)による相談】

 東京都内で輸入雑貨店を営む彼は、働けなくなったときの経済的な不安に対して、今から備えたいと考えています。年収500万円の彼は、4年前に中堅商社から脱サラして、妻(37歳)、長女(3歳)、長男(1歳)を養っています。

 深田さんは「自分が働けなくなると、小さな子どもを抱えた妻は仕事に出ることができない」「働けなくなっても生活費の3カ月分くらいは貯めているので何とかなるけど、それより長くなると家族の生活がとても心配」といった胸の内を話します。

 「社会保険の仕組みにとても疎く、公的な給付金などがあれば教えてほしい」「テレビのCMで流れる保険会社の就業不能保険も気になる」とも言っています。

 働けない状態を「就業不能」といいますが、まず公的な就業不能保障の説明を始めましょう。会社員などが加入する健康保険から支給される「傷病手当金」と、国民年金(基礎年金)・厚生年金から支給される「障害年金」といった2つの仕組みがあります。

会社員なら、健康保険から支給される「傷病手当金」

 会社員や公務員には、健康保険の加入者として、業務外の病気やけがで仕事を休むときに受け取れる「傷病手当金」があります。賃金・給料が受け取れないときの所得を補償するために給付されるものです。

 会社を連続して3日以上休むなど一定の条件をクリアしたうえで、休業4日目から最長1年6カ月間、賃金・給料(正確には「標準報酬月額」といって健康保険組合等のルールによる報酬額)の3分の2を受け取ることができます。実はこの傷病手当金は、深田さんのような自営業の方が加入している国民健康保険にはないのです。

<傷病手当金を受給するための一定の条件>

  • 病気・けがのために療養(自宅療養を含む)
  • 療養のため、それまで行っていた仕事に就けない状態
  • 賃金・給料が受けられない(賃金・給料が傷病手当金より少ないと差額が支給)
  • 連続して3日以上休んだ場合(待期期間という)。待期期間には、休日・祝日、年次有給休暇取得日も含む

 深田さんは、「会社員時代に培った輸入実務を活かして独立した後、仕事も順調で、今の商売にはとても満足しているけど、社会保険の細かいことには全然気が回らなかったな~」とちょっとがっかりした様子。会社員が加入する健康保険には存在し、国民健康保険には存在しない制度があることは知らなかったようです。次に「障害年金」の説明です。

自営業は、国民年金からの「障害年金」のみ

 年金というと、老後の生活費を支える存在としてイメージされますが、それだけではないのです。不幸にして傷病や事故により重い障害を抱えた方は、「障害認定日」に一定の障害状態に該当すると障害年金を受け取れます。

 障害認定日というのは、初診日(原因となった病気やけがで初めて病院に行った日)から起算して1年6カ月を経過した日(原則)、または1年6カ月以内に症状が固まって(固定して)、治療の効果が期待できない状態となった日をいいます。所定の条件を満たせば、国民年金(基礎年金)から障害基礎年金が、厚生年金から障害厚生年金が給付されます。前者が障害等級1級と2級の2レベル、後者が障害等級1級、2級、3級および障害手当金の4レベル。少し細かい仕組みなので詳しくは図表を見てください。

 会社員や公務員の場合、障害基礎年金(国民年金)と障害厚生年金(厚生年金)が両方とも受け取れますが、深田さんのような自営業者は厚生年金に加入していないので障害基礎年金(国民年金)のみとなります。

 年金額(満額)の水準は、障害等級2級(例えば眼や耳の障害や、脳血管障害による手足などの障害で、日常生活が著しく制限を受けるなど)で65歳以降にもらう老齢年金に相当する金額、障害等級1級でその1.25倍、つまり25%増しの年金となります。その際、障害厚生年金には、加入期間が短い若年層でも25年勤務したものとみなして計算する最低保障があります。

 また、障害基礎年金には子の加算(子が2人まで各22万円程度、3人目以降は各7万円程度が加算)が、障害厚生年金には配偶者の加算(22万円程度)があります。仮に深田さんが障害等級2級に相当する傷病で働けなくなると、障害基礎年金(78万円程度)に2人の子どもの加算を含めても120万円程度の受け取りとなります。

自営業者が抱えるリスク

 傷病手当金と障害年金、2つの公的な保障制度についての説明を聞いた深田さんは、「これじゃ生活難しいですね。対策をとらないと」といった厳しい受け止め方です。自営業の深田さんが抱えているリスクとして、

  • 傷病手当金は受給資格がないため、働けなくなったその日から収入が途絶えること
  • 障害年金も働けなくなった時から1年6カ月経たないと受給できず、しかも障害基礎年金(国民年金)のみで会社員・公務員よりも少ないこと

 が浮き彫りとなります。家族をもつ自営業者の場合、公的な制度だけでは補いきれない場合が多いのです。

 そこで、深田さんが関心を持っている生命保険会社、つまり民間の「就業不能保険」を見てみましょう。

民間の就業不能保険は受給条件などをしっかり確認したい

 生命保険会社が提供する保険は商品で、内容も千差万別です。加入に当たっては受給条件をしっかりと確認する必要があり、注意点やポイントは次のとおりです。

(1)所定の就業不能状態にならないと受け取れない

 入院している状態はもちろん、医師の指示により自宅において、軽い家事および必要最小限の外出を除いて、治療に専念している状態も就業不能状態となります。細かな定義は保険会社によって異なりますので注意してください。

(2)家計の不足額をじっくり考えて給付月額を設定する

 受給対象外の期間(申込時に60日と180日のいずれかを選ぶ、180日は保険料が割安)があり、それを超えて就業不能状態が続くと月額10万円、15万円、20万円など設定金額が、保険期間満了(60歳、65歳などの年齢満了や、20年、25年といった期間満了がある)まで適用されます。ただし、一度給付条件に該当すれば、保険期間満了まで受け取れるタイプと、就業不能状態から回復し、働き始めるとストップするタイプもあります。

(3)加入にあたり留意すること

 うつ病などの精神疾患は対象外とする就業不能保険が少なくありません。精神疾患は療養が長期間にわたりやすい病気ですので、保険によりカバーしたい場合は、加入前にしっかりと確認しておく必要があります。

 これら民間の就業不能保険に関する説明を聞いた深田さんは、「3カ月くらいの生活費は貯蓄で何とか凌げるので、受給対象外期間を60日で設定すればいいな」「就業不能保険のパンフレットを取り寄せよう」との反応で、自分が働けなくなったときの万が一の備えとしてすべきことが見えてきたようです。

最後に

 病気やけがなどにより長期間働けなくなるリスクへの備えを見てきました。自営業者は会社員よりも、公的な就業不能保障が弱いので、民間の保険でカバーする必要性が高いことも浮き彫りとなりました。ただ今回の深田家は、子どもが小さく妻が働けないケースでしたが、子どもが成長して働くことができる家庭もあるでしょう。それぞれの家庭で必要な備えは違ってくるのです。

 新型コロナ禍で不安定な生活が続きますが、将来に向けて、家族で病気やけがで長期間働けなくなるリスクを話し合い、必要と思われる備えに取り組んでみてはいかがでしょうか。

小松英二(こまつ・えいじ) ファイナンシャルプランナー CFP(R)認定者
経済アナリスト
FP事務所「ゴールデンエイジ総研」代表。1981年大学卒業後、日本銀行入行。景気動向調査、対金融機関の金融取引、基幹金融システム・日銀ネットの開発などに携わる。その後2007年4月にFP事務所を開業し、資産運用、相続対策を中心に相談業務を展開。生活者向けセミナー、企業・金融機関の社内研修、FP資格の合格対策講座などの講師も務める。

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