大変革期のモビリティ業界を読む

キックボードだけではない…高齢化社会、観光立国に欠かせない電動モビリティ

楠田悦子

 4月15日に、電動キックボードのヘルメットや走行場所などついて、警察庁が「多様な交通主体の交通ルール等の在り方に関する有識者検討会」の中間報告書を発表し、今度の方向性を示したため話題となった。

電動キックボードのヘルメットや免許の有無に対し各国で対応が分かれている(Getty Images)※画像はイメージです
出典:警察庁「多様な交通主体の交通ルール等の在り方に関する有識者検討会」中間報告書

 対象の移動手段には自動配送ロボットも

 この検討会で議論された内容は電動キックボードだけに注目してはいけない。その名の通り、自動車、原動機付自転車、自転車、電動車いす、徒歩にも影響する、実に多様な移動手段の方向性が検討された会議で、日本のパーソナルモビリティの当面の方向性を示したと言っても過言ではない。

 警察庁の「多様な交通主体の交通ルール等の在り方に関する有識者検討会」で取り扱われた移動手段は、電動キックボード、搭乗型移動支援ロボット、電動車いす、自動配送ロボット、超小型モビリティ・ミニカーだ。

 類似の検討会で2014年頃、超小型モビリティを軸とした搭乗型移動支援ロボットなどのパーソナルモビリティの検討が行われた。今回は電動キックボード、自動配送ロボット、自動運転の技術を活用した電動車いすの登場など、世界的に爆発的に増えた新たな移動手段、物流の人手不足の解消、高齢者の移動手段の確保など社会的なニーズの高まりにより、整理が行われた。またLuup、mobby ride、glafitといった若い熱のあるスタートアップ企業の粘り強い働きかけが社会を動かした点も特筆したい。

 最高速度に応じて3つに分類

 検討会で示された方向性のポイントは、“最高速度”に応じて3つの類型に分けられた点だ。

 これまでは一つ一つの車両の特性に応じて整理され、自動車や原動機付自転車に当てはめられていたが、同じくらいの大きさや速度のものは、交通ルールでまとめようとしている点が新たな動きだ。

 (1)歩道通行車両(時速6km程度)

 基準となっているのが電動車いすだ。電動車いす相当の大きさで、電動車いすの制限速度と同様に時速6km、電動車いすは歩行者扱いであるため通行場所は歩道・路側帯となる。交通ルールは歩行者相当の交通ルールに従うことになる。

 検討会の対象となった搭乗型移動支援ロボット、電動車いす、自動配送ロボットがここに当てはめられている。

(2)小型低速車(時速15kmまで)

 基準となっているのが自転車だ。普通自転車相当の大きさで、通行場所は車道や普通自転車専用通行帯、自転車道、路側帯だ。歩道は原則認められない。

 電動キックボードや搭乗型移動支援ロボットがここに当てはめられている。

 ヘルメット着用義務に関しては、引き続きの検討となっている。日本では自転車は車両であるが歩行者でもあるような曖昧な移動手段であったが、近年は保険加入の義務化、ヘルメットの着用、車道走行、交通ルールの徹底、自転車の走行空間の整備などが進んでいる。自転車に区分されたからといって、安全対策が緩くなるわけではない点に留意したい。

(3)既存の原動機付自転車など(時速15km以上)

 通行場所は車道のみで、免許やヘルメットなどのルールは維持される。

 電動キックボードや搭乗型移動支援ロボットがここに当てはめられている。

 電動キックボードは自転車に酷似?!

 移動手段を速度で整理する考え方は、欧州などでみられる。検討会では主に電動キックボードを通して各国を調べている。

 電動キックボードを自転車に似ていると整理している国は、免許やヘルメットに対して寛容だ。

 ドイツでは、電動キックボードは運転特性や道路交通におけるとらえ方が自転車と酷似していると整理している。14歳未満の児童には電動キックボードの運転を認めていないが、その理由も14歳未満は、電動アシスト自転車(eBike)の運転に適さないと考えるからだ。また走行場所は、車道、自転車道、自動車専用通行帯や自転車専用道としている。

 フランスでも電動キックボードは、自転車に対する規制に準拠しており、走行場所も車道や自転車レーンとなっている。また電動キックボードの運転に関して年齢制限を設けているが、12歳までヘルメットの着用義務があることを理由としている。

 一方、電動キックボードのヘルメットや免許の有無に対して寛容でない国もある。

 イギリスでは運転免許を必要としており、韓国では交通事故防止や法令順守の観点からヘルメットと運転免許は義務だ。

 歩行者・自転車の分離と安全教育

 検討会の中間とりまとめや海外事例でも挙がっていたように、次世代の移動手段の走行場所は歩行者や自転車が通る場所を使うことになる。そのためには歩行者と自転車の分離を行い、自転車が通る場所を整備する必要がある。

 また自転車の交通ルールや乗り方のマナーなどの教育も次世代の電動モビリティの活用のベースとなる。

 しかし、同検討会の委員も指摘していたが、日本では自転車の事故や交通ルール違反などが多く、自転車が通る場所も歩道だったり車道だったり曖昧に道路が整備されており、社会の中で自転車は危ないと認識されている。これまで日本において自動車以外の移動手段の活用が手薄になっていたからだ。

 日本では自転車に関する法律「自転車活用推進法」が2017年に施行され、徐々に安全教育、自転車整備、安全な車両の普及などの検討が地方自治体でようやく始まったところだ。そのため、まだまだ人の意識も道路インフラの状況も、多様な移動手段を使いこなすキャパがないのが実情なのだ。

 電動キックボードに対して寛容ではない韓国の事例にもあったように、安全が担保できない国では運転免許やヘルメットを強化するしかない。逆に、ヘルメットや運転免許がなくても交通事故の少ない国は、どのような移動手段であっても、寛容に使うことができるだろう。

 電動キックボードなどをはじめとする多様な電動モビリティの活用を考えている自治体は、ベースとなる自転車の政策に力を入れる必要がある。

 筆者はこの検討会の対象となっている移動手段をいろいろ試乗した経験がある。期待を込めて感想を言うと、日本の実情に応じた車両開発やデザインがまだまだ足りず、車両価格も非常に高く普及が難しいと言わざるを得ないものも多い。

 多様な電動モビリティは、高齢化社会や観光立国には必要不可欠なアイテムで、今後ますます必要性が増していくだろう。これらを普及させるためには、これまで指摘した道路インフラ整備、安全教育、車両の3つのバランスを念頭に進めて欲しいと思う。

心豊かな暮らしと社会のための移動手段・サービスの高度化・多様化と環境を考える活動に取り組む。自動車新聞社のモビリティビジネス専門誌「LIGARE」創刊編集長を経て、2013年に独立。国土交通省のMaaS関連データ検討会、自転車の活用推進に向けた有識者会議、SIP第2期自動運転ピアレビュー委員会などの委員を歴任。編著に「移動貧困社会からの脱却:免許返納問題で生まれる新たなモビリティ・マーケット」。

【大変革期のモビリティ業界を読む】はモビリティジャーナリストの楠田悦子さんがグローバルな視点で取材し、心豊かな暮らしと社会の実現を軸に価値観の変遷や生活者の潜在ニーズを発掘するコラムです。ビジネス戦略やサービス・技術、制度・政策などに役立つ情報を発信します。更新は原則第4月曜日。アーカイブはこちら