コロナ禍の在宅医療 感染対策との両立模索
新型コロナウイルスの感染拡大をきっかけに、入院患者は家族との面会が厳しく制限されるようになった。人生の終末期に直面する患者の家族の中には、残された時間を大事にしたいと、在宅医療を希望する人も少なくない。一方、感染対策への苦労もある。昨年、高齢の母を自宅で看取(みと)った男性がいる。余命わずかとされた男性の母は入院中に新型コロナにも感染。しかし最期を自宅で迎えることができた。感染対策の模索とともにある在宅医療の今について、男性と担当した医師に話を聞いた。(大渡美咲)
病院で感染
昨年3月下旬、都内在住の60代の男性の母(当時90代)は、慢性腎不全などのため都内の病院に入院後、ほどなく新型コロナに感染。新型コロナ患者を受け入れる中核病院に転院し、隔離病棟に入った。
男性をはじめ家族は母とは直接会えず、面会はオンラインに。その間、腎不全など持病がさらに悪化し、担当医から「余命はあと数週間」と告げられた。
幸い、新型コロナのほうは軽症だった。感染から2週間以上が経過した頃、主治医から他者に感染させるリスクは低く、退院も可能と告げられた。ただ、この頃はまだPCR検査で陽性反応が出ていたため、このまま入院を続けて病院で亡くなれば、最期に立ち会えない可能性もあった。
「最期に立ち会うことができなければ、母は骨で家に帰ってくることになる。一生悔いが残ると思った」と男性。母を自宅で看取ることを決意した。
男性が母を自宅に迎えるにはまず、訪問診療に応じてくれる医師と看護師を探す必要があった。しかし病院を通じて探しても当時は前例もなく、多くの医師や看護師に断られたという。
医師、保健所の協力
ようやく見つかったのが、東京都中野区の「たかねファミリークリニック」の高根(たかね)紘希(こうき)医師だった。高根さんは「自分が断ってしまったらと考え、地域の患者のために何とかしたいと引き受けた」という。
とはいえ、新型コロナの罹患(りかん)歴のある患者への訪問診療は初めてで、感染対策に確立されたノウハウはなく、手探りの状態だ。スタッフや家族を感染させないために、高根さんはまず、同区保健所に連絡。保健所でも初の事例だったが、コロナ対策の基礎知識から防護服の貸し出し、使い方などを高根さんに指導し、全面的に協力した。
そうして準備が整った昨年6月、母が退院。男性は高根さんや看護師に24時間体制でサポートを受けながら、妻ら家族とともに母の看護をした。
母は自宅で好物のわらび餅やすしを食べるなど、家族とのひと時を過ごし、退院から8日後、家族に看取られて亡くなった。
高根さんは「ご家族の笑い声が聞こえてきて、この時間が迎えられてよかったと心から思った」と振り返る。男性は「自宅で看取ることができて本当に良かった。保健所、高根医師、看護師の皆さんの協力があって実現することができた」と話した。
さまざまなケースに対応
男性の母の自宅療養を高根さんとともに支えたのが、訪問看護ステーションを三大都市圏などで展開する「ソフィアメディ」の看護師だった。新型コロナの陽性患者対応の専門チームがあり、24時間いつでも駆け付けられるようにした。チームの看護師は陽性患者のみを担当し、出社せず、自転車やタクシーなどで直接、担当患者の自宅を訪問。周囲との接触を最小限にしている。
男性の母の看取りはこうした地域の医療関係者の連携が支えとなった。一方で、人生の終末期にコロナの感染が重なったとき、介護する家族自身の感染対策や、受け入れ体制の構築など、課題は尽きない。
「コロナ禍の中で地域医療の課題は増えているが、対策や予防をすればできないことではない。保健所などと連携して体制を整えていくことができれば」と高根さん。
高根さんがクリニックを構える中野区では医療従事者とともにコロナ禍の在宅医療の在り方について検討を始めた。感染を防ぎながらの在宅医療体制の確立を目指している。