- 「老後資金を貯めるのはムリ!」
実際の家計を直視すると40代・50代の方はこんな風に叫びたくなってしまいますね! これは、人生の三大支出が同時期に折り重なるように襲ってきているからです。
さて、「人生の三大支出」というのをご存じでしょうか。三大支出とは「住宅資金」「教育資金」「老後資金」です。
この三大支出というのが、一時期に固まってくるとんでもない状態になってしまいます。たとえ共働きの家庭で、少し家計に余裕があったとしても、この3つ支出を同時に対処するのはかなり厳しいと思います。最近、この傾向がとても増加しているのです。なぜ三大支出が同時に重なることが、増加しているのかというと、晩婚化の影響があるからです。
「えっ?」と思うかも知れませんが、「晩婚化」と「三大支出の同時期化」の関係をこれから説明します。
以前は三大支出のダブる時期は少なかった
以前は、結婚・出産というのが20代というのが一般に多いパターンでした。その時は「住宅資金」「教育資金」「老後資金」と大きな支出が順番に流れていって、何とか乗り越えることができました。支出がダブったとしても、短い期間で終わることができたのです。また、高度成長もあり、賃金が上昇していったと言うことも大きな要因でもあります。
これまでの三大支出の流れをみてみましょう。たとえば30代で住宅を購入するとします。30年間のローンを組むと60歳には完済されます。
教育資金がもっともかかるのが、子どもが大学生になるころです。そのころは40歳後半になります。収入ももっとも多くなる時期でもあります。子どもが大学を卒業して、独立をすると家計がグッと楽になってきます。これが50代前半です。ここから老後資金の準備が始まり、60歳のときに定年退職になれば、それまで貯めた資金と退職金を合わせて、何とか老後資金にするというのが、以前の三大支出を乗り切るロールモデルだったのです。
晩婚化が招いた「三大支出の同時化」?
ところが、現在は晩婚化が進んでいます。国立社会保障・人口問題研究所の「出生動向基本調査」によると、1992年は、平均初婚年齢は夫が28.3歳、妻が25.7歳でした。2015年の調査では、夫が30.7歳、妻が29.1歳となっています。
厚生労働省の「人口動態統計」によると、1985年における第一子の母親の出産年齢は26.7歳でしたが、2019年は30.7歳になっています。これらのデータでも、晩婚化で、晩産化が進んでいることがわかります。
初婚の年齢が20代後半にずれ込むと、出産は30歳の前半になります。すると住宅購入も40代前半になり住宅ローンが70歳近くまでずれ込んでしまいます。年金暮らしになってから住宅ローンが残っていると、老後生活がかなり苦しくなるというのはよく言われることでもあります。
また出産が30代前半になると、子どもの大学入学の時期が50代になってきます。しかしこの50代半ばには、収入のピークが過ぎて、むしろ役職定年などで減少に転じます。収入が減少するときに教育資金のピークを向かえることになるとさらに家計は厳しくなります。しかも住宅ローンは、まだ半分も残っている時期です。
この状態で、老後資金の準備をするというのは、ほとんど「ムリ!」と悲鳴を上げてしまうのは仕方がないことです。
8.5%の人は、100万円未満の貯蓄しかない!
この三大支出によって「三重苦」の状態に陥ってしまい、どう頑張っても、老後資金は貯めることができないという人が多くなっているのです。60歳の定年を迎えるのに、貯蓄はほとんどゼロに近い状態という人もいるのではありませんか。
たとえ退職金があったとしても、住宅ローンがかなり残っているので、退職金をローンの完済に使ってしまい、貯えはゼロという人も、決して珍しいことではありません。
PGA生命の「2020年の還暦人(かんれきびと)に関する調査」によると、1960年生まれの人の貯蓄額の平均は約3000万円です。しかしその内訳を見ると、65%の人が2000万円未満で、100万円未満という人が約20%でした。
貯蓄が少ない人は、いったいどうすればいいのでしょうか。
「三大支出」を平均化する方法とは
晩婚化による晩産化が進むことによって定年までの期間が短くなり、三大支出が折り重なってくると説明しました。しかし、晩婚化が進むと同時に、人の平均寿命は延びています。健康でいられる時期も長くなっているのです。そこで、これを利用して三大支出を平均化する方法を私は考えてみました。
つまり、老後資金は定年後に貯めるということです。
もちろん、現役時代に老後資金を貯めるのがベストではありますが、どうしてもムリな場合には、定年後に長く働いて老後資金を貯めるという方法があるのです。
定年後に老後資金を増やす方法がある
60歳定年から65歳までは再雇用で働けますし、さらに2021年4月から施行された高齢者雇用安定法によって70歳までも雇用が努力義務化になっています。つまり70歳までは働ける土壌ができつつあります。
60歳からスタートしても70歳までは、10年間あります。この期間を、老後資金を貯める時期として使うのです。
会社員として働くと70歳までは厚生年金に加入できます。その分、老齢厚生年金が増えます。働いていると給与がありますので、それが生活資金になります。生活資金を給与でまかなえば年金の繰下げ受給が可能になりますので、請求の時期を70歳まで遅らせることで年金額を増やすことができます。
この「70歳まで働く」プランよって、70歳以降は増額された年金で豊かに生活することができます。また、夫婦共働きの場合には、ダブルで年金が受け取れるので、より余裕のある年金暮らしに近づけけることができます。
キャリア磨きは不可欠
あきらめないで長く働くことです。それにより愉しい老後ライフを実現することが可能になります。ただし、「老後資金は60歳から準備すればいい」などと漫然と構えていればいいのではありません。長く働けることができるように、キャリアアップやセカンドキャリアを身につけることがとても重要になってくるのです。何事も準備と心構えは必要です。チャレンジしてください。
【新時代のマネー戦略】は、FPなどのお金プロが、変化の激しい時代の家計防衛術や資産形成を提案する連載コラムです。毎月第2・第4金曜日に掲載します。アーカイブはこちら