軽自動車に家具やベッドなどを取り付けた「軽キャンパー」(軽キャン)と呼ばれるキャンピングカーが人気だ。コロナ禍で「3密」を避けながら車中泊できるとしてニーズが急増。納車まで1~2年待ちというケースも珍しくないという。軽自動車がベースとなっているだけに取り回しもよく、普段の生活にも便利に使える。手頃なサイズと価格も魅力のようだ。今月12、13両日に東京都内で開催された「東京キャンピングカーショー2021」でブームを牽引(けんいん)する軽キャン市場の最前線を追った。
「軽キャン」の生産台数が前年比140%増
「納車までの期間は3カ月。それでもうちは早い方ですよ」
軽ワゴン車や軽トラックを改造し、居室部分を製作する架装メーカーの関係者は嬉しい悲鳴を上げる。軽キャンには、水回りの設備を備え、室内の高さを拡張するなどして特殊用途自動車(8ナンバー)に改造した軽トラベースの「キャブコン」や軽ワゴン車ベースの「バンコン」と呼ばれるタイプと、特殊な改造はせず軽自動車のまま内装のみを改造するタイプがある。いずれにしても省スペースな車体だが、最近は受注から納車まで1年、長ければ2年待ちということもあるほど高い人気を誇る。
「軽ベースで手軽にキャンプライフを楽しむ人には、登山や写真など他にアウトドアの趣味があって、そのための移動を快適に過ごすツールとして使っている人が多い」と語るのは、軽キャン専門の「ちょいCam」シリーズを展開する「ルート」(愛知県半田市)の井上政彦会長だ。展示車両はスズキの「エブリイ」を改造した軽キャン。マイクロバスを改造した「バスコン」など大型のキャンピングカーに比べるとかなり小ぶりだ。「こんなに小さい室内でどうやって過ごすの?」と不思議に思い、車内に乗り込むと、その印象は大きく変わった。
大人2人がゆっくり横になることができるベッド仕様の後部座席に複数の収納棚が並び、限られたスペースを有効に活用している。水回りや調理スペースこそないものの、車載用の電子レンジや炊飯器、着脱可能なテーブルも備えている。「サイドオーニング」といわれるロール式のひさしを車体側面から引き出せば、車外にもう一つの空間が生まれる。
必要最低限の生活空間がコンパクトに収まった軽キャン。意外なほど狭さは感じず、むしろ見た目以上に広く感じる。まさにアイデア次第で広がる“秘密基地”だ。想像力と冒険心が掻(か)き立てられる。
日本RV協会(横浜市)によると、軽キャンの生産台数は前年比140%増(2020年)と右肩上がりで伸び、中でも8ナンバー車以外の軽キャンは161.2%増と突出。8ナンバー車を除くキャンピングカー2685台のうち、軽キャンは1122台と半数に迫る勢いを見せている。
コロナ禍で鉄道などの公共交通機関を使った旅行が難しい中、車中泊のできるキャンピングカーの需要が堅調に推移しているそうで、日本RV協会イベント事業部の神代哲平部長によると「特に300~400万円と比較的価格が手頃な軽キャンは入門者でも購入しやすい」という。
購買層も変化しつつあり、定年退職後のシニア層だけでなく、子育てが一段落し、時間とお金に余裕ができた50代にも人気だという。キャンピングカーの利用者は「夫婦やパートナー」が71.8%と群を抜いて多い。趣味の“相棒”として定年後を見据えた準備をする人も増えているようだ。
「車中泊できる普段使いの車」という強み
軽キャンが注目される理由はそれだけではない。大規模災害時の「避難場所」としても脚光を浴びているのだ。災害時に一般の乗用車で車中泊する場合、長時間同じ姿勢を続けたことなどによる「エコノミークラス症候群」の危険性が指摘されている。寝泊りできる設備を備えたキャンピングカーならベッドスペースでゆったりと足を伸ばすことができる。
キャンピングカーのリフォームなどを手掛ける「カーセンターTAKAI」(岡山県笠岡市)の高井宣雄社長は「車中泊ができる普段づかいの車というハードルの低さが、キャンピングカーとしての自由度を広げている」との見方だ。音響にこだわったり、「女子旅」用に見た目のデザインにこだわったりと、個人の嗜好性を生かしたユニークな改造を手がける。高井社長は「軽キャン人気がキャンピングカーの裾野を広げている」と話した。