ヘルスケア

コロナ禍「デジタルデバイド」解消へスマホ貸与 

 新型コロナウイルスのワクチン接種が本格化するなか、ワクチン予約の申し込みで電話回線がパンクする自治体が相次いだ。「インターネット予約の仕方がわからない」と困惑する高齢者が多かったためとみられる。こうしたなか、東京都渋谷区は高齢者にスマートフォン3000台を無償貸与。コロナ禍で急速に進展するネット社会に高齢者が取り残されないよう、デジタルデバイド(情報格差)解消を目指す動きが広まっている。

自分にできるか…

 江東区に住む70代夫婦はスマホから夫婦自らワクチン予約を行った。「スムーズだったし時間もかからなかった」と話す。一方、スマホを持たない渋谷区の無職女性(70)は、「周りから買ってほしいといわれるが、自分にできるかどうか…」と敬遠する。

 渋谷区は、各種統計や区民に実施した意識調査などを踏まえ、区内の高齢者約1万~1万6000人がスマホ未保有であると推定した。

 貸与するスマホ端末の数は3000台。9月から2年の貸与期間中、端末料金や通話料・通信費などは、いずれも区が負担する。6月21日時点で約1100件の応募があり、区は今月末までとしていた応募期間を7月19日まで延長する。

 端末には、無料通信アプリ「LINE」や区の防災アプリ、健康増進アプリなどを事前に入れる予定。使いたいアプリを自由にダウンロードすることもできる。

災害時の課題

 この事業が目指すのは、高齢者がスマホを「使いこなせるようになること」だという。渋谷区は公共施設で使い方講座を実施するうえ、相談専用のコールセンターを用意。事業を統括する同区高齢者デジタルデバイド解消担当課長の阿部圭司さんは「貸与しっぱなしではダメ。サポートが大切だ」と強調する。

 事業開始の背景には、コロナ禍も関係している。非接触が推奨される現在、あらゆる場面でデジタル化が急速に進行。同時に、ネットやパソコンなどの情報通信技術を利用できる人と利用できない人の格差も拡大した。

 災害時でも、リアルタイムで避難所の開設情報を把握し、迅速に対応できたのは、SNSをよく利用する若者世代だったことも明らかになっている。同区防災課災害対策推進係によると、令和元年東日本台風の発生時、区内では避難所に避難した人の約5割が20~30代の若者で、65歳以上の高齢者は1割にも満たなかったという。

 こうしたことから、同区は「普段からスマホを使いこなせていないと、緊急時にはとても使えない」とし、デジタルデバイドの解消を喫緊の課題と位置づけている。

広がる支援事業

 高齢者のデジタルデバイド解消に向けては、菅義偉政権が「誰一人取り残さない、人にやさしいデジタル化」を掲げており、今月8日には、総務省が令和8年にスマホを使いこなせる60歳以上の割合を70%とする数値目標を明らかにした。民間でも、ソフトバンク(港区)が総務省と連携し、行政手続きを中心としたサポートを行うスマホ教室を今月から全国で開始。同様の取り組みは今後広がっていくとみられる。

 渋谷区の事業は、65歳以上の区民で、スマホ未保有などの条件を全て満たす人が対象。申し込みは、区の施設やHPで配布している申込書を郵送する。応募者多数の場合は、独り身世帯などを優先する。問い合わせは、同区高齢者福祉課(03・3463・1873)まで。(浅上あゆみ)