大変革期のモビリティ業界を読む

革新する「大阪メトロ」 万博と都市型MaaSが大阪の未来を切り拓く

楠田悦子

 東京五輪・パラリンピックなど大型投資やメディアが動く大型イベントを「マイルストーン」としているまちづくり関連企業は多い。次なる注目イベントは、2025年4月13日から10月13日まで大阪市内の夢洲で開催される2025年日本国際博覧会(略称「大阪・関西万博」)だろう。まだ詳細は明らかになっておらず、公的な決定がなされていないが、会場の夢洲(ゆめしま)までの鉄道アクセスや大阪市内の鉄道、バスを担う大阪メトロはビッグイベントに向け、MaaS(マース)や自動運転などを活用しながら組織やサービスを変えている。

 大阪市交通局から大阪メトロへ

 大阪メトロと言われて、耳になじみがない人もいるだろう。大阪市交通局が前身だ。大阪市営地下鉄御堂筋線、谷町線、四つ橋線、中央線、千日前線、堺筋線、長堀鶴見緑地線、今里筋線、ニュートラムの9路線を引き継ぎ、2018年4月1日から大阪市高速電気軌道(大阪メトロ)として、新たにスタートした。駅数は133駅、営業キロは137.8キロ、1日の平均輸送量は約254万人に上る(東京メトロは180駅、1日の平均輸送人員は約498万人)。同社は大阪市の100%出資だが、“構造変革”を強力に推進し、経営基盤を強化させようと動いている。グループ会社には大阪市内のバス網を担っている大阪シティバス、6つの地下街を運営する大阪地下街があり、交通系ICカードはメインでPiTaPa(ピタパ)が用いられている。

 つまり大阪メトログループは、日本で人口が2番目に大きい都市(東京除く)の地域生活や観光の足や日常生活を支えている(横浜市約377万人、大阪市約275万人、名古屋市約233万人、福岡市約160万人)。それだけに、同社が打ち出す方向性は関西の他社への経営に大きなインパクトを与える。

 第二の創業をはじめた大阪メトロが描く中期経営計画の重点テーマに据えた5つのテーマがある。社内外との事業シナジーを創出し、移動・行動データに基づいた上質な体験を提案するデジタルマーケティングの推進、利便性・快適性を向上させシームレスな移動を提供するMaaSの推進、沿線を3エリアに分けた沿線開発の推進、安全・安心と顧客満足度の向上、人・組織づくりやDX整備などを含めた経営の質的向上だ。

 あらゆるスキームの真ん中に据えられているのがMaaSだ。大阪ならではの都市型MaaSを目指すとしている。

 すでに中期経営計画に則り具体的にサービス展開がはじまっているものがある。2021年3月からはじめたオンデマンドバスだ。定時に定められた路線を走る路線バスではなく、利用者が乗りたいときに予約し、近くの乗降場所まで迎えに行くデマンド型のバスサービスであり、高効率・高頻度化により、個々人のニーズや待ち時間のロスを改善してシームレスな移動を提供している。今後はタクシーやシェアサイクルなども組み合せて、鉄道駅からの先の新たな移動網を創造しようとしている。将来的には自動運転技術の活用も念頭に置いている。

 MaaSと言えば、首都圏を中心とした鉄道各社の動きとそれ以外の地域の実証実験の動きにみえるが、このように関西でも会社の経営計画の中心に据えて改革を進める動きがある。

 次世代交通システムの構築

 中期経営計画の最終年度に当たる2025年には大阪・関西万博が開催予定で、会場は臨海部に位置する人工島の夢洲だ。

 アクセスは一般の自家用車での直接的な乗り入れができない。会場から約15キロ圏内に設けられる会場外駐車場からバスに乗り換えるパークアンドライド式が採用される。また大阪メトロ中央線のコスモスクエア駅から会場となる夢洲に鉄道(北港テクノポート線)が延伸され、新駅がつくられる計画だ。想定来場者数は約2,820万人にのぼり、ここでも大阪メトロの活躍が期待される。

 大阪・関西万博の基本計画によると、会場を未来社会のショーケースと見立てて、再生可能エネルギーの活用、5Gネットワーク、空飛ぶクルマ、MaaS、人と共存するロボットなどによるSociety5.0実現型会場を目指そうとしている。すると万博の会場内では、東京五輪・パラリンピックを超える、かなりの数の自動運転車両やロボットが活用されるのではないかと想定される。

 大阪市高速電気軌道(大阪メトロ)交通事業本部MaaS戦略推進部の豆谷美津二氏は、「まだ大阪万博の詳細な計画は公開されていないが、大阪・関西万博に関して大阪メトロとして、積極的に関わっていきたいと考えている。万博の会場を想定して複数の企業と連携しながら、複数台の自動運転車両を走らせることにより群管理の実証実験を行う予定であり、将来的には未来社会における自動運転車両やエネルギーマネジメントなどを組み込んだ次世代の交通管制システムの構築を目指していく」と語る。

 自動運転とまちづくりの関係に詳しいAMANE社によれば、エネルギーや多様な自動運転車の群管理は、将来的に都市OSやスマートシティ・スーパーシティにつながる考え方で、挑戦的な実証なのだという。

 大阪メトロの革新により、大阪や関西がどのように変わっていくのか。東京周辺とは異なる斬新でユニークな取り組みが出てくるのではないかと、今後の展開が非常に楽しみだ。

心豊かな暮らしと社会のための移動手段・サービスの高度化・多様化と環境を考える活動に取り組む。自動車新聞社のモビリティビジネス専門誌「LIGARE」創刊編集長を経て、2013年に独立。国土交通省のMaaS関連データ検討会、自転車の活用推進に向けた有識者会議、SIP第2期自動運転ピアレビュー委員会などの委員を歴任。編著に「移動貧困社会からの脱却:免許返納問題で生まれる新たなモビリティ・マーケット」。

【大変革期のモビリティ業界を読む】はモビリティジャーナリストの楠田悦子さんがグローバルな視点で取材し、心豊かな暮らしと社会の実現を軸に価値観の変遷や生活者の潜在ニーズを発掘するコラムです。ビジネス戦略やサービス・技術、制度・政策などに役立つ情報を発信します。更新は原則第4月曜日。アーカイブはこちら