新時代のマネー戦略

妻の死亡保険は本当に要らない?「夫より収入が低いから」という先入観

鈴木暁子

 最近筆者が相談対応をするご夫婦は若いカップルが多く、結婚して子どもができたので保障の見直しが必要ではないかとご相談にみえたケースが、たまたま数回続きました。家族構成に変化が生じ、ライフプランのひとつの大きな転換となるタイミングで、保障の見直しの必要性に気づいて検討する若い世代が増えているというのは、喜ばしいことだと思っています。

 ただ、具体的に話を進めていくと「ちょっと待って」と注意を促したい場面があります。せっかくの保障の見直し、今回は、本人たちは気づきにくいけれど、意外と大事な注意点をお伝えしたいと思います。

大黒柱は夫だけとは限らない 妻も大黒柱の1本!?

 共働きといっても夫婦の収入の構成は世帯ごとに違います。たとえば世帯収入800万円であっても、夫600万円+妻200万円という世帯もあれば、夫婦とも400万円という世帯もあります。

▼夫の収入が妻より少し高い夫婦のケース

 一つ目の事例は共働きで、収入としては、妻より少し夫が上回っているようなAさんご夫婦の世帯です。これまで夫婦二人だったのでどちらも死亡保険には加入していなかったけれど、「子どもが生まれたので」夫の保険加入について相談したいというものでした。夫には相当額の死亡保障を検討しているようなので、その際筆者が「奥様の加入は検討されないのですか?」と伺ったところ、「とりあえず自分(夫)かなと思って」とおっしゃるのです。

 確かに収入の高いほう(筆者の相談業務において、多くの場合は夫)に万一のことがあれば、世帯の経済的ダメージは大きいですから、夫の保障に重きをおくのは当然といえます。しかし、共働きの妻の死亡保障が検討外というのはどうでしょう?

 ある程度の収入を得ている妻であれば、それも加味した家計であることは多いと思います。その場合1本の大黒柱ではなく、2本の柱で成り立っていると考えるべきです。女性が数年働いて寿退社をするのが普通という時代であればともかく、共働きも当たり前という若い世代でも、いまだに「夫=大黒柱、一番責任重大な人」というイメージが、男性にも女性にもあるような気がしています。昔ながらのイメージが影響しているのでしょうか。

▼万一の際の公的保障も、妻を亡くした「夫」には意外と薄い

 保障を検討する際、まずは公的保障、次に勤務先の制度を活用し、それでも不足する分を自助努力でカバーというのが原則です。死亡保障の場合、公的保障というのは遺族年金です。公的年金は1階部分の「基礎年金」と2階部分の「厚生年金」から構成されていますが、それぞれ給付してもらえるための要件があります。

 Aさんご夫婦(夫婦いずれも30代前半、年収は夫410万円、妻350万円、子ども(0歳))のケースで見ていきましょう。

【遺族基礎年金の受給要件】

 保険料納付要件は満たしているものとします。遺された配偶者が遺族基礎年金を受け取れるかどうかで大きなポイントは、対象者欄に記載されている要件に「該当する子がいるかどうか」です。子がいなければ夫であろうが妻であろうが受給資格はありません。

事例のケースであれば、子が高校を卒業するまで、夫死亡の妻は「78万900円+22万4,700円(子の加算)=100万5,600円(令和3年度の水準)」を受け取ることができます。また、妻死亡の夫も同等に受け取ることができます。

ところが遺族厚生年金は夫が妻と同等に受け取れるケースはなかなかありません。

【遺族厚生年金の受給要件】

 遺族厚生年金は子の有無にかかわらず夫も妻も受け取ることができます(※遺族厚生年金は納付している厚生年金保険料によって給付額が変わるため、一概にいくらとはいえません)。

 遺族厚生年金の場合、妻には年齢要件はありません。一方、夫が受け取る場合は対象者に記載のあるとおり、「妻が亡くなった時に夫が55歳以上であること」が要件です。つまり夫が受け取れるケースは格段に低くなることがおわかりでしょう。

 また、この事例では、0歳の子が高校を卒業すると遺族基礎年金は打ち切りとなりますが、その後妻には、65歳に妻自身の老齢年金を受け取れるようになるまで、中高齢寡婦加算という遺族厚生年金の加算給付があります。そして“寡婦”ですので、この加算給付は妻のみ対象となります。

▼会社の制度も、妻を亡くした「夫」にはハードルが高いことも

 また、福利厚生が比較的手厚い企業だと、従業員の死亡時に弔慰金のほか、遺族年金や育英年金を支給してくれるところもあります。ただ、妻がそのような企業に勤めていた場合でも、「当該従業員の収入を上回る者を除く」とか、「当該従業員に主として扶養されていた子」のような要件があります。

 これまでの相談の経験上、ケースとしては夫が妻の収入を上回る確率が高いので対象外になることが多く、子についても夫の扶養に入れていることが多いので、せっかくの給付も残念ながら対象外となってしまったことがありました。

 個々の世帯を見れば、収入にほぼ差がなく、家計における負担も同じという夫婦も少なくないでしょう。しかし世の中的にはまだまだ女性が男性よりも経済的に弱者であることが多いため、福祉的な要素は女性に対するほうが手厚く、遺族への給付としては妻に比べ夫が受け取れるもののほうが少なくなる可能性が高いのが現実です。

 実はAさんご夫婦の必要な保障額を試算したところ、妻が万一の際のほうが家計へのダメージが大きいことが発覚しました。

死亡保障の必要性は“見える収入”だけで考えてはいけない

▼妻が出産を機に退職…専業主婦世帯のケース

 二つ目の事例は、妻が育休後に退職し、現在は専業主婦世帯となっているBさんご夫婦のケースです。妻の収入がないため、夫の死亡保障はAさんより大きい額を検討していました。それ自体は間違いのないところです。ただ、この場合も筆者が妻の保障について伺ったところ、「専業主婦だからもともと僕の収入だけでやっていますし」とのお考えでした。果たしてそれで大丈夫でしょうか。

 養育中の子どもにとって母親の存在は大きいものです。また専業主婦であれば家事も一手に引き受けてくれているでしょう。専業主婦が担うこの家事の対価はいくらでしょうか? 実は筆者もハマったドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」は契約結婚した夫婦の話で、雇用主である夫から従業員の妻へ統計値に基づいた「月給」を払うというものでした。しかしそれ以前から、世の中では家事労働をお金に換算するといくらなのだろうというシンプルな疑問は話題になっていました。

 平成30年12月(令和元年6月17日修正)の、内閣府経済社会総合研究所「無償労働の貨幣評価」(PDF)によると、OC法(機会費用法:外で働けば得られたであろう利益が、無償労働の家事を行うことで逸失したとして評価する)では、2016年の場合、以下のとおりです。

 また、同資料によると、2016年の無業有配偶者の家事活動時間は平均2,100時間だそうですので、単純計算でも約315万円程度ということになります。「夫が外で働いて収入を得るための環境作りの対価」と考えれば、死亡保障の必要性は目に見える収入だけで判断するものではないと思ってください。

妻がもしも…家計へのダメージはリアルな数字に置き換える

 今回のコラムのきっかけとなった相談事例は、「子どもが生まれたので保険を見直したい」というものでした。いずれも当然のように夫の死亡保障の見直しであり、妻の保障については特に考えていなかったという感じでした。が、しかし妻の家計への寄与度が大きい世帯では、自助努力でカバーしないといけない分(=家計へのダメージ)は、場合によっては妻が万一の場合のほうが大きくなる可能性は大いにあります。

 また、専業主婦であっても小さな子どもがいる場合、子どもの面倒を見るために実家の親を頼れれば良いですが、それが難しい場合はシッターを頼むとか、お金で解決しなければならない分も増えるのです。さらに深刻なケースでは、家庭での妻の穴を埋めるために、夫が時短勤務を余儀なくされ、あるいは残業がない部署などへの異動を願い出て、収入が減る可能性もあります。

 家族構成や実家のサポート有無など、さまざまな事情によって妻が万一の際の家計への影響は世帯ごとに異なります。

 家族が増えて死亡保障を見直す場合は、夫だけでなく、「今、妻がいなくなったら、生活はどのように変わるのだろう」ということを、できるだけリアルな金額に置き換えてイメージすることも必要でしょう。

鈴木暁子(すずき・あきこ) ファイナンシャル・プランナー CFP(R)認定者
FPオフィスNext Yourself 代表
多様化するライフスタイルに応じた生活設計や資産形成を重要視し、セミナー・講演を行うほか、新聞、雑誌・ウェブなどで記事・コラムを執筆。家計管理や資産形成相談を多数手がける。シニアマネー相談も得意とし、リタイアメントプラン、セカンドライフの生活設計アドバイス、高齢期の住み替え支援も行う。共著に「100歳まで安心して暮らす生活設計」(実業之日本社)がある。FPで構成する「高齢期のお金を考える会」のメンバー。

【新時代のマネー戦略】は、FPなどのお金プロが、変化の激しい時代の家計防衛術や資産形成を提案する連載コラムです。毎月第2・第4金曜日に掲載します。アーカイブはこちら