あなたは「買い物」について、どのようなポリシーをお持ちですか?
- 「高くても妥協せず買いたい」
- 「できるだけ安く、お得に買いたい」
- 「なるべく多くの情報を見て、比較検討して買いたい」
などなど買い物における価値観は、人によって異なります。当然、何を重視するかで、お金の使い方は変わるため、こうした価値観が家計や貯蓄へ与える影響は決して小さくありません。
逆に、家計に余裕があるときは「高くてもよいものが欲しい」と思っていても、余裕がなくなれば「とにかく安いもの」に目が向くことも多々。今の家計や貯蓄の状況によっても、価値観は左右されます。
つまり、買い物時に何を重視するかは、今の家計の状況を表すバロメーターともいえるのです。
弊社カクワーズではこれをなんとかデータで示したいと、独自調査で全国の20歳から64歳の男女900人にアンケート調査を実施。その結果、「買い物時の価値観」を大きく分けて6つのタイプに分類することができ、それぞれの家計状況の違いも浮き彫りにすることができました。
あくまで「傾向」ではありますが、現在の家計の課題を考えるひとつのきっかけとなれば幸いです。
買い物における16の価値観で、お金の使い方を分類
買い方のタイプは調査から抽出した結果、合計6つに分類することができます。
タイプ1 高価格・長使い買い
タイプ2 衝動・今気分買い
タイプ3 安い・お得志向
タイプ4 予算・比較優先
タイプ5 造り・品質優先
タイプ6 安心・安全志向
各タイプは、「クラスター分析」という手法を使い、抽出しました。クラスター分析とは、同じような回答をした人、つまり、考え方や行動が似ている人同士を1つの集団としてグループ化する分析方法です。抽出された集団を「クラスター」と呼びますが、ここでは分かりやすく「タイプ」とします。
この調査では、20歳から64歳の男女900人に「お金の使い方に対する価値観」を質問。回答が似ていた人をグループ化したところ、上記の6つに分類できた、というわけです。
分析に使用したのは、次の16項目です。ぜひ、ご自身でも回答してみてください。そして、1~16のうち、何番目の項目が該当したかを覚えておくようにしてください。
なお、この調査では買い物の対象について、特に限定していません。あえて限定しないことで、「まず思い浮かべる重視点」を抽出することを目的としています。
<「買い物に対する価値観」チェック16項目>
Q.次のうち、あなたの買い物や出費に対する考え方として、重視したいものはどれですか。「そう思う」気持ちが強いものをお選びください。[いくつでも]
- 1.高くても、良いもの買って長く使いたい
- 2.本当に欲しいものは、高くても妥協せず買いたい
- 3.いいものに出会ったら、予算オーバーしてもよい
- 4.欲しい気持ちが強ければ、衝動買いしてもよい
- 5.自分へのご褒美は、たっぷりしたい
- 6.安いものを、気分に合わせて買い替えたい
- 7.ものより、経験や思い出になるものに使いたい
- 8.周りと比べて見劣りしないものを買いたい
- 9.「いいね」と言われるものを買いたい
- 10.できるだけ安く、お得に買いたい
- 11.必要なものを、必要な量だけ買いたい
- 12.情報をできるだけ集め、よく比較検討してから買いたい
- 13.何事も予算を決めて、計画的に買いたい
- 14.製造がしっかりしているものを買いたい
- 15.国産品など、企業支援につながるものを買いたい
- 16.安心・安全なものを買いたい
さっそく次のパートでは、調査結果から、各タイプにどのような特徴があるかを見ていきます。ご自身がどのタイプに該当するかは、各タイプ別解説の最初にご紹介するグラフをチェックしてみて下さい。
グラフにおいて、プラスに大きく出ている項目は、そのタイプで平均(全体値)より高いポイントをつけた価値観です。より高い数値であるほど、そのタイプにとって重要な価値観を表します。
反対に、マイナスに大きく出ている項目は、そのタイプではあまり重要でない価値観です。
簡易的なチェックになりますが、先程の質問で選んだ項目と重なりが多く、プラス、マイナスともに、より大きな数値の項目と合致しているところが、ご自身に近いクラスターと考えてよいでしょう。
タイプ1 「高価格・長使い買い」
▼欲しい物は妥協しない。「貯め力」もトップ
タイプ1は、1~3に該当する人です。特に特徴的な価値観は、「本当に欲しい物は、高くても妥協せず買いたい」。長く使えるもの、よいものは予算を気にせず買いたいと考えるタイプです。ただ、「何事も予算を決めて計画的に買う」は低いことから、じっくり選んで買うタイプではなさそうです。
買い物の決め手も「どうしても欲しい気持ちがある」「ときめきを感じる」が高く、口コミなどの評価はあまり気にしません。年間貯蓄額(年間貯蓄額を回答した人の平均)は、75万円で6タイプ中トップ。暮らしの満足度も49.3%と平均(39.0%)より高く、順調な生活であることをうかがわせます。
▼隠れ浪費体質。使っていいお金だけ持つこと
一方、タイプ1には、「クレジットカードを使いすぎてしまう」「あればあるだけ使ってしまう」などが平均より高く、浪費体質な面もあるようです。お金を使うことが、基本的に好きなため、節約はどちらかといえば苦手。家計簿も「ただなんとなく」つけているため、予算管理は得意ではないでしょう。貯める口座と使う口座をしっかり分け、日頃から使い切っていいお金だけ見る仕組みを持つと安心です。
タイプ2 「衝動・今気分買い」
▼「今」が大事で、お金を計画的に使うのは苦手なタイプ
タイプ2は、4~9に多く該当する人です。最も特徴的な価値観は、「安いものを、気分に合わせて買い替えたい」。「できるだけ安くお得に買いたい」は価値観として平均より低いことから、安さよりも気分を重視したいタイプと考えられます。
「『いいね』と言われるものを買いたい」「周りに見劣りしないものを買いたい」など、やや見栄を張る消費の傾向も見られ、「自分へのご褒美」や「衝動買い」についても肯定的。反対に、「必要なものを必要な量だけ買いたい」「よく比較検討したい」など、買う前に検討する姿勢はあまりなく、どちらかといえば、財布のひもはゆるめといえるでしょう。
▼見通し力を高めるとムダのない家計に。冷蔵庫の掃除を
「今」を重視するためか、その場の勢いで衝動買いもよしとしているのが、家計的にはムダが出やすく課題です。実際、「食材をつい買いすぎてしまう」の値がデータとして高くでているのも、食べ切れる量を考えずに買ってしまう結果と思われます。
家計簿はアプリ派が6割ですが、ムダを減らすには「買ったのに使っていないもの」を見るほうが近道。まずは冷蔵庫の掃除をすることで、自分が買いすぎたり、使いきれずにムダにしたりする食材に気づけます。必要な分だけ買うにはどうすればよいかを考えられ、計画的な買い物につながっていくはずです。
タイプ3 「安い・お得志向」
▼将来が不安で安さ以外は重視せず
タイプ3は、10番の項目に該当し、他は低い人です。まず値段が安いかどうかを見るタイプで、買い物の決め手も「値段が安い」「ポイントがつく」が高くなっています。
節約派にも見えますが、年間貯蓄率は57.5%で6タイプ中4位、平均貯蓄額は60万円で5位。家計簿率も低く、家計管理力や貯め力はそこまで高くありません。暮らしの満足度も、34.2%と平均より低めです。収入や将来に対する不安が、ストレスの原因になっており、そこが「安さ」を求める背景にもつながっていそうです。
▼現状の把握と、「安さ」以外の判断軸を持つことが課題
安くても、必要ないものを買っていたり、数が多くなったりすれば、総額では大きな出費になります。「安いから買ってもいい」では、ムダがふくらんでいる可能性もあるのです。
多くのムダは、気づくことで改善できます。このタイプは、自分の出費と向き合うことが貯蓄を伸ばすきっかけになる可能性は大。家計簿率が低いので、まずは出費を記録してみると、家計改善のきっかけをつかめそうです。また、「安さ」以外の判断軸を持つことも重要です。家計簿では金額だけではなく、高い満足度を感じたもの、必要性の高さなどもチェックしてみると、よりよいお金の使い方を考えるきっかけになるでしょう。
タイプ4 「予算・比較優先」
▼予算・計画ありきだが、暮らしの満足度は低め
タイプ4は、11~13番の項目に該当する人です。最も特徴的な価値観は、「情報をできるだけ集め、比較検討してから買いたい」。何事も予算を重視し、よく検討するタイプで、勢いや気分に左右されない姿勢が見受けられます。
普段の生活でも「食べるものや着るものは前もって決める」「天気予報はよく見る」など、計画的に行動している点からも、忘れ物やうっかりミスによる出費は少ない、しっかり者といえそうです。
家計簿では、ただ書くだけでなく、「年間でかかる特別出費」や「1年の収支」に注目するなど、管理レベルの高さがうかがえます。しかし、きちんと管理している割に、暮らしの満足度は6タイプ中6位と低め。納得できるお金の使い方なのか、気になるところです。
▼息抜き予算を持ち、適度な浪費を
予算を意識するためか、買い物の決め手も「値段が安い」「値引率が高い」が、平均より高くなっています。「本当に欲しいかどうか」は後回しにする様子があり、満足度の高いお金の使い方ができていないのが課題といえるでしょう。
予算を守ることは、家計に非常に重要ですが、あまりに厳しい予算や我慢しすぎは、思わぬところで爆発する原因にもなります。適度な浪費予算を持ち、どんな出費が自分の暮らしの満足度を高めるのかを知ることも、より納得度の高い家計を作るうえでは大切です。
タイプ5 「造り・品質優先」
▼スペック重視で堅実。年収は高いが定年後に不安あり
タイプ5は、14と15の項目に該当する人です。特に、14番の「製造がしっかりしているものを買いたい」という思いが非常に強いタイプです。かといって、お金をむやみにかけるわけではなく、「予算内」で「必要性がある」ことも意識しており、お金の使い方は堅実といえます。
平均年収は519万円(金額を回答した人の平均)で、6タイプ中で最も高く、平均貯蓄額も2位ですが、暮らしの満足度は平均的。同等の年収、貯蓄額の<タイプ1 高価格・長使い買い>と比べ、10%ほど低くなっています。「貯め力」も家計管理力もあり、お金の使い方も堅実なので、現状の家計に大きな課題はなさそうですが、貯蓄の目的として「老後の安心」が圧倒的に高く、特に定年後に不安を感じているのが特徴的です。
▼今後のライフプランを書き、やるべきことを確認
特に大きな課題はなさそうですが、強いてあげるとすれば、年収が高く、貯蓄額もあるのに、暮らしの満足度はさほど高くないことでしょうか。
老後への不安が満足度に影響しているのならば、解決策は現実的な見通しを立てることです。受け取れる年金や貯蓄額、いつまで働くのかをきちんと見通すことで、今取り組むべき課題もはっきりしてくるはずです。
タイプ6 「安心・安全タイプ」
▼安心を求めつつも、値引きを選ぶ。貯蓄に対する関心の低さが課題
タイプ6は、16番に該当し、他をあまり選ばなかった人です。「安心・安全」のみを重視していますが、安全のためなら「お金をかける」わけではなく、買い物では、「値段の安さ」や「値引率」が決め手となっています。
貯めている人の割合(年間貯蓄率)は48.4%と6タイプ中6位。「ムダ遣いが多い」のが悩みですが、貯蓄関心度も57.6%と他タイプより低めです。家計に対し、あまり前向きな気持ちを持っていないことが課題と考えられます。
▼小さな目標を書きだし、モチベーションを上げる
全般的に、家計に対するモチベーションは低いタイプです。ストレス源に「ゆっくりできる時間がない」が上がっており、家計に向き合う余裕がないのかもしれません。
貯蓄は、「貯めたい」と思う気持ちが第一歩。これまでの取材・調査でも、小さな目標をたくさん書き出し、可視化することは、モチベーションを高めるのに効果を発揮することが分かっています。小さな目標は、達成感を味わいやすいため、やる気の維持にも役立ちます。
満足度を上げるのは、貯め方よりも使い方
6つのタイプの中で、最も「使う」と「貯める」のバランスがよかったのは、〈タイプ1 高価格・長使い買い〉でした。平均年収と貯蓄額が〈タイプ1〉と近い〈タイプ5 造り・品質優先〉は、家計管理力は〈タイプ1〉より上ですが、暮らしの満足度では〈タイプ1〉を大きく下回っています。
両者の差を分けたのは、貯め方ではなく使い方。〈タイプ1〉は、「本当に欲しいものを買う」という価値観が高いことが特徴でした。
〈タイプ4 予算・比較優先〉も、予算ありきの生活を守っているのは立派ですが、暮らしの満足度は低く6位。もちろん、浪費がよいわけではありませんが、よい意味で、自分本位のお金の使い方ができ、値段や周囲に振り回されない人のほうが、お金に対する自信もつき、暮らしの満足度が上がることをデータは裏付けています。
どれほどたくさん貯めても、不安を消せず、思うようにお金が使えないのは残念。ときには、「本当に欲しいもの」をじっくり考え、思い切って買ってみるのも、大切なのかもしれません。
調査概要:2020年7月実施。対象者は全国20歳~64歳の男女900人。インターネットリサーチ。調査企画・データ提供:株式会社カクワーズ
※調査時の「貯蓄額」の定義:最近1年に収入から貯蓄した世帯の貯蓄額。預貯金のほか、積立投資、貯蓄型保険などへの積立額など含む(株などの資産は含まない)。同居でも親や兄弟の貯蓄額は含まないものとする。
※年間貯蓄率は最近1年で貯蓄ができた人の割合(わからない・答えたくないを除く)。
※平均貯蓄額は、最近1年で貯蓄ができた人の平均額。
【新時代のマネー戦略】は、FPなどのお金プロが、変化の激しい時代の家計防衛術や資産形成を提案する連載コラムです。毎月第2・第4金曜日に掲載します。アーカイブはこちら