6000人超が新型コロナ感染、サッカー欧州選手権がもたらす教訓
【北川信行の蹴球ノート】6~7月に行われたサッカーの欧州選手権で観客計約6400人が新型コロナウイルスに感染したとみられる、との英政府の調査報告書が波紋を広げている。同報告書では、会場のウェンブリー競技場に6万人以上が集結し、イングランド代表がイタリア代表にPK戦の末に敗れた7月11日の決勝では、約3400人が競技場内外で感染した可能性を指摘。「欧州選手権の大会そのものと、イングランド代表チームの決勝進出が英国全体に顕著なリスクを生み出した」と結論付けている。しかし、これをもって「サッカーの試合観戦=危険」とするのは早計。報告書を読み解き、何が問題だったのかを調べた。
試合ごとに増加、際立つ感染者数
調査は英イングランド公衆衛生庁などが中心となり、大規模なスポーツ文化イベント開催に伴う感染拡大への影響を調べるために実施。サッカーの欧州選手権のほか、ほぼ同時期に開催されたテニスのウィンブルドン選手権やゴルフの全英オープン選手権、クリケットの国際試合、モータースポーツイベント、競馬、野外ロック・フェスティバル、オペラ・フェスティバルを対象に調べた。いずれのイベントでも、入場の際にはワクチンの接種証明か、48時間以内に行われた検査での陰性証明の提出が求められていた。
欧州選手権については、収容人数約9万人のウェンブリー競技場で行われた8試合が対象。観客数の上限が当初は厳しめに設定されていたこともあり、6万人以上が可能となった準決勝、決勝も含めて合計で約30万人が観戦した。試合ごとに観客数と、観戦が感染のきっかけとなった可能性のある症例数(=発症または検査の3~7日前に観戦した人数。複数イベントの観戦者含む)を記すと、
6月13日のイングランド-クロアチア(観客18497人)は4
同18日のイングランド-スコットランド(同20306人)は40
同22日のイングランド-チェコ(同19104人)は52
と試合ごとに増加。
同26日のイタリア-オーストリア(同18910人)は44
と下がったものの、
同29日のイングランド-ドイツ(同41973人)では449
と一気に10倍以上となり、
7月6日のイタリア-スペインの準決勝(同57811人)は699
同7日のイングランド-デンマークの準決勝(同64950人)は
2092
同11日のイングランド-イタリアの決勝(同67173人)は
3404と拡大していった。
他のイベントをきっかけに感染した可能性のある観客の数は、同じように期間中延べ約30万人が来場したテニスのウィンブルドン選手権が582人、クリケットの国際試合が253人、ゴルフの全英オープン選手権が64人などとなっており、欧州選手権の数の多さが際立っている。
また、陽性確認の時期や潜伏期間などから、観戦時に既に感染していた可能性のある症例数(=発症または検査の2日前以内に観戦した人数)についても報告されており、欧州選手権では8試合合計で3千人以上を記録。とくに一部のファンが暴徒化したり、チケットを持っていないファンが乱入したりするなどの混乱が起こった決勝では、すでに感染していた2千人以上が入場し、感染を広げた可能性があるという。同様の感染者は、テニスのウィンブルドン選手権で299人、クリケットの国際試合が123人、ゴルフの全英オープン選手権は100人だった。
イングランド代表躍進でタガが外れたファン
確かに、これらの数字だけをみると、欧州選手権は桁違いだ。ただ、イングランド代表の躍進による高揚感で緊張が一気に緩んだ準決勝、決勝を除けば、一定レベルに抑えられていたのではないか。感染拡大は、舞い上がったファンが基本的な感染予防策をないがしろにした結果と言える気がする。英公共放送BBC(電子版)も「重大なリスクを生み出した」とする一方で、「大規模な参加イベントを安全に実施できることをデータが示している」との英政府の見解を紹介している。
調査報告書も「ほぼ同数の観客を集めた欧州選手権とウィンブルドン選手権の結果は大きく異なり、欧州選手権は予防策を講じた屋外スポーツイベントのレベルを大きく超える感染が発生したことを示唆している」とした上で、その理由について「ウィンブルドンの観客は、実施されている感染予防措置をほぼ順守していたとの報告があったが、ウェンブリー競技場では、準決勝と決勝の試合前や試合中にコンコースで、観客が密集し、叫んだり、チャントを歌ったりするなどの騒々しい行動が見られた」「トーナメントが進むにつれて、ウェンブリー競技場の観客はマスク着用などの予防策に従わなくなった」などと指摘。その結果、「コンコースの二酸化炭素濃度は、野外ロック・フェスティバルの混雑した場所よりも高く、かなりの高リスクになっていた」と記している。
さらに報告書は、イングランド代表の決勝進出により、1966年に行われた自国開催のワールドカップ以来55年ぶりの国際主要大会制覇への期待が高まったことが、「一生に一度」の高揚感をもたらしたと強調。「他のサッカーの試合も含め、その他のスポーツイベントと同列に扱うことはできない」としている。
また、今回の調査ではそもそも、観客がどこで感染したかは不明。報告書では午後8時にキックオフとなった欧州選手権の決勝を例に、「観客が競技場に入る前にさまざまな社会活動に従事していた可能性がある。感染の伝播は、イベント自体だけでなく、他の活動で発生した可能性もある。中でも、パブやレストランへの入店が最も高い頻度で報告されている」と説明。つまり、競技場以外で感染した可能性を排除できておらず、「観戦=感染」とは必ずしも言えない。
以上を踏まえ、報告書の結論は警告とも受け取れる冒頭部分とともに、「イベント会場への往復時にマスクを着用したり、人々が集まってイベントを視聴するバーやパブといった換気の悪い屋内スペースでの混雑を最小限に抑えたりするのが重要。イベントの主催者はコンコースや会場への出入り口などで観客の密度を管理する対策を検討する必要がある」と締めくくっている。
会場内でのマスク着用や、会場への直行直帰の励行、分散入退場などは、日本のプロ野球やJリーグでは既に導入され、徹底されている施策。会場で騒いだり、叫んだりする行為も禁止されている。「他山の石」にはすべきだろうが、欧州選手権での感染爆発事例は、そのままただちに日本のプロスポーツにはあてはめることはできない気がする。