新時代のマネー戦略

ふるさと納税の本当の魅力は「意思表示」 税金の使い道は自分で決める

伊藤魅和

過去最高額を記録したふるさと納税

 ふるさと納税による2020年度の寄付が過去最高の約6725億円を記録しました。ふるさと納税といえば、返礼品による自治体間での競争が過熱し、返礼品調達額を寄付額の3割までとするなどの規制を設けた新制度が導入されたことで、2019年度の寄付総額は減少(件数は増加)していました。

 寄付額が再度増加に転じた背景には、新型コロナウイルスの感染拡大があると言われています。利用者の在宅時間が増えたこと、飲食店需要が減り、販路を失った肉類や水産物などの高級食材が返礼品市場に回ってきたこと、そして生産者支援を目的に農林水産省が返礼品調達費の半額を補助する制度(「令和2年度 国産農林水産物等販路多様化緊急対策事業」)を設けたことも影響しているようです。

 税金が控除され、地場産の返礼品が届くのが楽しみ、という方は多いと思います。一方で、自身が一生懸命働いた対価から引かれる税金を、「有効活用して欲しい」「使い道を決めたい」とは思いませんか? 最近は、そんな「使い道」から寄付先や寄付方法を選ぶ人が増えています。

ふるさと納税の大きな魅力は「使い道が選べる」こと

 そもそもふるさと納税とはどのようなものなのでしょうか。もともとは「地方創生」推進のため、2008年に導入されました。自分の生まれ育った「ふるさと」だけではなく、自分が選んだ自治体(都道府県、市町村)に寄付をするのが「ふるさと納税」です。ふるさと納税の魅力として、

  • 1.税額控除(住民税・所得税)が受けられること
  • 2.納税先からお礼の品が届くこと
  • 3.寄付金の使い道が選べること

 などがあげられます。

 寄付をすると2000円を除外し、住民税・所得税が原則全額還付(上限あり)されます。自分が住んでいる土地に納める住民税を、他の自治体にスライドさせているわけです。

自分が納める税金で被災地支援 「代理寄付」で迅速に

 ふるさと納税の魅力の中に、寄付金の使い道が選べることを挙げました。日本は地震や台風・大雨による自然災害が毎年のように発生しています。そうした被災地を応援しようと、2016年熊本地震、2018年西日本豪雨、2021年熱海豪雨など、ふるさと納税を通じて被災地に寄付をする災害支援の輪が広がっています。

 災害支援のふるさと納税には返礼品がありません。しかし先述のとおり、ふるさと納税は、自分が住んでいる土地に納める住民税を、他の自治体にスライドさせています。実質的な負担は2000円だけで、それ以外はお金をかけず、被災地に支援の気持ちを届けることができるのです。

 被災地に寄付をすると受け入れ先の事務負担が増えるのではないかと心配されるかもしれません。実際、被災した自治体としてはありがたい反面、住民の復旧支援に追われる中で大変な作業負担でした。

 そこで、他の自治体が被災地のふるさと納税の事務を代行する「代理寄付」という仕組みが生まれたのです。代行する自治体を通して被災地に寄付金を届け、事務作業は代行する自治体が行います。被災地は寄付金だけをもらい、事務作業はしなくて済みます。

「ふるさと納税型クラウドファンディング」でより明確な意思表示

 そのほか、クラウドファンディングを利用して寄付を集める自治体も増えてきており、世界自然遺産の保護など様々なプロジェクトが発表されています。

 例えば、「よみがえらせよう福山城の魅力!」(広島県福山市)や「ライチョウ保護スクラムプロジェクト」(長野県)、「日本の原風景!かやぶき屋根の風景を未来へ紡ぐ!」(新潟県)など(いずれも募集終了)があげられます。

 被災地支援と異なる点は、目標額と期間が設定されていること、返礼品がある場合があることです。

 クラウドファンディングでは、上記のように、一般のふるさと納税と比べ使い道がより具体的になっており、納税者が積極的に「どこの」「何に」自分の税金を使って欲しいという意思表示が可能になり、税金の行き先を決めることができるのです。

ふるさと納税をあえて「利用しない」という選択肢

 ふるさと納税は、自分が住んでいる土地に納める住民税を、他の自治体にスライドしているわけですから、控除額は「住民税所得割額の2割」という上限があるものの、住んでいる土地にはその分、税金が入らなくなります

 「住んでいる場所が好き」「どんどん発展してほしい」、そんな思いがある方は、あえてふるさと納税を利用しないという選択もできます。

 もしくは、返礼品は出ませんが、住んでいる自治体にふるさと納税として寄付のできる場合があります。その場合は子育て支援や伝統文化の継承など、資金使途の指定ができます。

ふるさと納税の利用率は働いている人の6.2%にとどまる

 総務省の「ふるさと納税に関する現況調査結果」によると、2015年度税制改正を境に、受け入れ額・利用者数ともに大幅に増加しているのがわかります。この年の税制改革で、確定申告が不要となる「ふるさと納税ワンストップ特例制度」が開始され、控除限度額が2倍に引き上げられた影響があると考えられます。

 その後も増え続け、2020年度には413.6万人(内177.3万人がワンストップ特例制度利用者)が利用しており、日本の就業者数6666万人(2020年度12月)のうち、約6.2%に相当する方がふるさと納税を利用していることになります。それだけしか利用していないのかと思われた方もいるかもしれません。

ふるさと納税は「確定申告が面倒」という人の誤解

 ふるさと納税の利用者数が伸びない原因は何でしょうか? 躊躇している方の中には、やろうと思っていても「確定申告は面倒くさい」と考える方も多いと思います。そんな声に応えたのが「ふるさと納税ワンストップ特例制度」(以下、ワンストップ特例)です。

 ふるさと納税をした場合、基本は確定申告をしなければいけないのですが、ワンストップ特例を利用すれば、確定申告をする必要がありません。煩わしい手続きを簡素化したのがワンストップ特例です。

▼「ふるさと納税ワンストップ特例制度」を利用するには?

 ワンストップ特例を利用できるのは、もともと確定申告が不要な給与所得者です。自営業者や医療費控除を受ける方、住宅を購入した翌年の確定申告が必要な会社員などは利用できません。

 利用する場合は、納付先の自治体にワンストップ特例利用の旨を申し出て、申請書を提出します。申請を受けた自治体が、申請者の住所がある自治体に連絡をするという仕組みです。

 ただし注意点として、6つ以上の自治体に寄付する場合は利用できないこと、自治体ごとの手続きになること、などの注意点があげられます。

ふるさと納税は新たなステージへ

 日本の給与所得者は、基本確定申告が不要です。確定申告の煩雑さはありませんが、給与明細書を見ると、決して少なくない税金が引かれています。自分の納めた大切な税金が何に使われているかわからないより、明確なほうが納める側としての気持ちが違う気がします。

 ふるさと納税の利用により、自らが税金の使い道を考え行き先を決めることで、納税者の税金に対する考え方も変わっていくのではないでしょうか?

 ふるさと納税をまだ利用したことのない方はまず、自身の控除上限額を総務省の「ふるさと納税ポータルサイト」で調べるところから始めてみてください。

伊藤魅和(いとう・みわ) ファイナンシャルプランナー CFP(R)認定者
FP office ITO代表。大学卒業後、証券会社など金融機関勤務での経験を活かし、ファイナンシャルプランナーとして独立。Web原稿などの執筆や家計相談に加え、主にセミナー講師として「わかりやすく」をモットーに、ライフ&マネープラン、確定拠出年金、資産運用講座など高校生から高齢者まで幅広く行っている。共著に「FP必携!注目ニュース&キーワード事典2016-2017」(近代セールス社)がある。

【新時代のマネー戦略】は、FPなどのお金プロが、変化の激しい時代の家計防衛術や資産形成を提案する連載コラムです。毎月第2・第4金曜日に掲載します。アーカイブはこちら