コロナ禍で金は最高値圏内 ただ、先行き警戒モードへ
美しい輝き! 宝飾品として重宝される金。資産形成の対象としても魅力的です。新型コロナで経済活動が停滞するなか、各国中央銀行の異例な金融緩和であふれた緩和マネーが安全資産「金」にも流れ、昨年8月、NY金は最高値を更新し、有事の金として存在感を示しました(図表参照)。
その金に不安なテーマが浮上しています。それは、世界経済を引っ張る米国で「金融正常化の第一歩を踏み出す時期」、具体的には金融緩和の段階的縮小(「テーパリング」と呼ばれる)の着手が検討されていることです。
過去の事例では、テーパリングに入る前に、緩和慣れした市場で短期的なショック症状が起こり、過剰反応した金は急落しました。一方、アフガニスタンやイランの情勢悪化や東アジアで高まる米中対立の激化など地政学リスクの高まりは、金価格の上昇要因です。プラス・マイナス交錯し、金価格の先行きに不透明感が広がっています。
そこで今回は、金投資のメリット・デメリットや、金価格を動かす要因をみながら、この先1年ぐらいの金投資のスタンスを考察したいと思います。結論を先取りすれば、「短期には慎重に、長期にじっくり時間分散投資」。ただ、あくまで私見です。投資は自己責任で。
金は世界で通用し、有事に買われるドル建て実物資産
まず、イメージをつかむために、金投資のメリット・デメリットをみていきましょう。
メリットとして、「世界共通で価値が認められている」ことが挙げられます。基軸通貨の米ドル建てで取引される「ドル建て実物資産」として、世界規模の保有ニーズがあることから、どんな状況でも買い手が見つかることは強みです。株式や債券など国や企業の信用を裏付けとする金融商品は、企業等が破綻すれば、価値ゼロとなることもあります。
また、金は有事に強いことも特徴です。軍事クーデター、戦争・テロなど地政学的リスクや、巨大ハリケーンなど自然の猛威による被災リスクの高まりで金選好が強まっています。
一方デメリットは、「利息や配当を生まないこと」です。持っているだけでは資産を増やせません。短期の利益を目指すのではなく、長期に守りながら増やしていく存在と言えるでしょう。
また、金地金といった現物保有は保管や交換のコストも考慮しなければなりません。盗難や紛失といった心配事もあります。「世界共通で価値が認められている」ということは、狙われる危険もあるのです。
さらに、為替変動リスクもあります。金の国際価格は、ドル建てで表示されています。そのため、金の国内価格は、その時のドル円相場で円に換算したものとなります。金の国内価格は、ドル円相場がドル高に動けば値上がりしますが、ドル円相場が円高に動けば値下がりすることになります。
ここまでメリット・デメリットをみてきましたが、資産運用全体からすると「財産を守る一つの手段」。金投資は、多くても金融資産の1割以内とするなど、十分な分散投資の中で取り組むべきでしょう。
1.旺盛な中央銀行による金購入
金価格をみるうえで、ポイントを3点指摘したいと思います。
金は「貴重な鉱物資源! 地球上の総量は50mプールの4杯弱」と言われています。その金の価格は需要がカギを握ります。
特に注目したいのは中国とインドの旺盛な需要。両国とも歴史的に金を好む国民性もありますが、2000年代以降の経済発展による所得の増加により、いっそう需要が高まりました。新型コロナによる景気減速により、一時落ち込みましたが、先行きは勢いを取り戻すものと思われます。
また、世界の中央銀行が盛んに金を購入していることも見逃せません。各国中央銀行は、「外貨準備」として米ドル、ユーロといった主要通貨のほかに、金も保有しています。主要先進国の中央銀行はだいぶ以前から保有していますが、このところインド、ブラジル、タイなどの新興国の中央銀行の金の購入が目立ちます。
背景には、政治・経済環境の不確実性が高まるなか、ドルやユーロなど主要通貨への依存度を下げ、外貨準備の中身を分散したいといった意図があるようです。
2.ドルの信認低下が金価格を押し上げる
ドル(一般に預金など流動性の高い資産で保有)と金の特性は、他の資産からの転換のしやすさ(流動性)です。そのため代替関係にあり、価値は相反することが少なくありません。わかりやすく言うとライバル関係にあります。特に近年は、超金融緩和で通貨供給が増えるとともに「ドルの信認低下」が進み、金の価値が相対的に浮上(上昇)しています。
そのドルですが、米連邦準備理事会(FRB)の総資産(増額は金融緩和)は、コロナ・ショック前の4兆ドル(440兆円)程度から、過去に例のない8兆ドルを超える水準となり、市場に緩和マネーがじゃぶじゃぶに供給されました(図表参照)。
FRBだけでなく、異次元な緩和マネーを流し込む各国中央銀行の金融政策は、コロナ禍のなかで経済の立て直しにつながるとともに、株価は史上最高値を更新、金価格も最高値圏に押し上げました。
原理的に、大規模な金融緩和はドルの希薄化、つまり「ドルの信認低下」につながります。さらに、主要先進国中で際だって拡大する米国の財政赤字(図表参照)も米国債の格下げリスクを高め、「ドルの信認低下」を加速していることも見逃せないでしょう。トランプ政権、バイデン政権と続いた異例な財政拡張政策が背景にあります。
こうした「ドルの信認低下」が、国や企業といった発行体のリスクとは全く無縁な、いわば「無国籍」といえる金の投資に向かっているのです。
3.米国は金融正常化へ! 過去に金急落の引き金に
FRBの金融政策の転換期に、金価格のトレンドが変わることがあります。
そのFRBは、新型コロナと戦う超金融緩和状態から、「金融正常化の第一歩」を模索しています。市場では、金融緩和の段階的縮小(テーパリング)は、早ければ年内開始との観測が高まっています。このテーパリング開始までの道のりで、過去に金価格は急落しました。その経緯を簡単に振り返りましょう。
かつてFRBは、リーマン・ショック(2007年から2008年の金融恐慌)で落ち込む経済や金融を立て直すため、かなり踏み込んだ量的金融緩和(2008年~2013年)により、大量のマネーを市場に供給。金価格も当時の最高値圏にありました。
問題はその後、2013年5月に当時のバーナンキFRB議長が、今後、幾度かの金融政策決定会合を経て、金融緩和の段階的縮小(テーパリング)に着手する可能性があることを示唆する発言をしたところ、新興国の通貨や株式などからマネーが流出するなど、市場に大きな動揺をもたらしました(バーナンキ・ショックと呼ばれます)。過剰反応は金価格にも及び、NY金は年間ベースで2割以上も下落しました。
過去のトラウマから、FRBは今回、市場の反応などに細心の注意を払いながら、テーパリングに向けた準備を慎重に進めています。
短期には慎重に、金投資は長期にじっくり分散投資
さて、この先、金価格はどうなるのか? 長期には、①中央銀行による金購入や、②過剰な金融緩和によるドルの信認低下は金価格の上昇トレンドをサポートしていると思います。一方、③金急落の引き金となる可能性のあるテーパリング開始に向けて、警戒も必要でしょう。
この先1年ぐらいの金投資のスタンスを考えると「短期には慎重に。5年、10年といった長期ではじっくり分散投資」ではないでしょうか。
▼戦略1
新規投資は当面見合わせて、仮に大きく下落すれば安値圏を見極めて、ある程度まとまったロットを購入していくことが考えられます。株投資で紹介される「押し目買い」といった手法です。
▼戦略2
それからもう一つ! 金投資には先述の「金地金の購入」のほか「金ETF(上場投資信託)」といった方法がありますが、この不安定な局面において投資するなら、金の値動きを気にしなくてよい「純金積立」に徹する戦略もあります。
純金積立なら、毎月一定金額を積み立てて(最低1,000円から積立できる)、毎日一定金額の金を買い付けることができます。購入タイミングを小刻みに分けた「時間分散」により、短期的なトレンド変化の影響を抑えることができるのです。それに、定量ではなく定額なので、金価格が安いときには多く、高いときには少なく購入できます。
金投資も含めて市場全体の先行き判断がとても難しい局面を迎えます。金投資を考える際の参考としてみてください。
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