受験指導の現場から

生涯年収、中学・高校入試で最初の決着はついている!? 学力勝負はリスク大!

吉田克己

 「学力・学歴と年収とのあいだには(比較的)高い相関がある」ことについて、「そうあるべきではない」と考える人はいても、「それは事実ではない」と現実を否定することは難しいだろう。

 高学歴偏重主義者と誤解をされたくないので念のため付言しておくと、筆者は「日本は適度な実力主義、競争社会でありつつも、生活は一億総中流が理想」と考えている(今さら実現可能かどうかは別の話)。いわば、対外的には国益主義者であっても国内的には社会主義者である。無論、ごく一部のスター選手や名優、名経営者などが1億円プレーヤーであることに異議があるわけではない。

 もちろん、社会人として生きていくためには、相応の教養は必要である。「日本人の9割に英語はいらない」と題する著名人の著書もあるが―筆者も同書の(タイトルではなく)内容には首肯できる―英語は教養ではない。コミュニケーションや情報収集のためのツールである。

 逆に、生活をしていくためには、社会や理科の知識はけっこう役に立つというか、必要となる場面は少なくない。では、算数はどうか? 

日本の算数教育の「帰結」

 筆者は、高校を卒業した生徒を“受け入れている”学校で―あえて“受け入れている”としたのは、基本「全入」だからである―就職試験対策講座の講師も務めているのであるが、つい最近、愕然としたというか、唖然としてしまったことがあった。

 数学(算数)を受け持っていたクラスが複数あり、カリキュラム進行や期末試験の内容は揃えるようにしていたのだが、以下は前期末試験問題の中の1問である。

問題1

ある品物を定価の3割引で3個買い5000円を支払ったら、お釣りが800円だった。この品物の1個の定価はいくらか。

 小6になったばかりでも、塾に通っている生徒であれば、おそらく8割方の生徒は正解できるレベルの問題だろう。ところが、担当していた100名以上の学生のうち、ざっくり、正答は3割、誤答が4割、空欄が3割といった様であった。

 誤答者のほとんどは「1820円」と書いている。「なぜ?」と思いながら問題文の下のスペースに書かれている式を見ると、売価が1個1400円であることには辿り着いているのであるが…、なぜかその後 ÷0.7とせずに×1.3と計算している。検算をしている様子もない(むしろ検算しないということのほうが仕事の進め方という側面では問題が大きいかもしれない)。

 さすがに、「数学は苦手」と言っても、原価・売上・利益、値引き・売価…など、損益が計算できないようでは、就ける職業(職種)は相当に限られてしまいそうだ。

 さらに、算数(数学)が苦手な生徒・学生は、数字に対する勘が鈍い。例えば、以下の問題は同じ前期末試験問題の中の1問である。

問題2

20%の食塩水150g、12%の食塩水250g、7%の食塩水400gをすべて混ぜ合わせると何%の食塩水になるか。

 食塩水の濃さに関する問題には、大きく分けて4通りの解き方があるのだが、最も基本的な解き方であれば、塾に通っていれば小6になったばかりの生徒でも、半数以上は正解できる(だろう)。

 にも関わらず、解答欄に「20」よりも大きい数字を書いてくる学生が1割以上いる(正解者は2~3割)。算数がすべてではないにせよ、中学・高校教育の何かがおかしいと思わざるを得ない。

我が子の適性に合ったフィールドは?

 文部科学省の「学校基本調査」によると、2020年度は「高等教育機関(大学・短期大学、高等専門学校および専門学校)への進学率は83.5%で過去最高となった。そのうち大学・短期大学への進学率は58.6%、大学進学率は54.4%、専門学校進学率は24.0%で、いずれも過去最高」だそうだ。

 しかしながら、誤解を恐れずに言えば、中・高校入学の時点で、すでに学力面での最初の階層化は済んでいて、その先は同一層内での競争になっている。

 我が子が高校生になったら、親は「猫も杓子も会社員か公務員」というパラダイムをいったん措いて、子どもの適性(得手・不得手、向き・不向き)をきちんと掴んでおきたい。

 使い古された言葉であるが、仕事を「頭脳労働」と「肉体労働」に分ける考え方がある。筆者はこの言い方はどこか差別的で好きではないのであるが、最近、「感情労働」という概念が提唱されている。

 そこで筆者としては、仕事の質を「知能労働」「技能労働」「感情(対人)労働」「単純労働」の4つに分けて捉えている。学力が大きくものを言うのは、知能労働と技能労働の一部分であろう。

 例えば、看護師、介護士、保育士、ホテルマンをはじめとする接客業は感情(対人)労働に該当する。職人さんは技能労働者であり、外科医や歯科医は究極の技能労働者かもしれない。

 単純労働は、昔であれば機械に、今であればAIに置き変わっていく中で、我が子は「知能労働」「技能労働」「感情(対人)労働」のどのフィールドをやりたがっているのか、向いているのか、本人の意思を引き出しながら早め早めに手を打てるように準備しておきたい。

京都大学工学部卒。株式会社リクルートを経て2002年3月に独立。産業能率大学通信講座「『週刊ダイヤモンド』でビジネストレンドを読む」(小論文)講師、近畿大学工学部非常勤講師。日頃は小~高校生の受験指導(理数系科目)に携わっている。「ダイヤモンド・オンライン」でも記事の企画編集・執筆に携わるほか、各種活字メディアの編集・制作ディレクターを務める。編・著書に『三国志で学ぶランチェスターの法則』『シェールガス革命とは何か』『元素変換現代版<錬金術>のフロンティア』ほか。

受験指導の現場から】は、吉田克己さんが日々受験を志す生徒に接している現場実感に照らし、教育に関する様々な情報をお届けする連載コラムです。受験生予備軍をもつ家庭を応援します。更新は原則第1水曜日。アーカイブはこちら