新時代のマネー戦略

男性育休…法改正後に上司や同僚が「言ってはいけない」こと 無自覚な違法行為がキケン

中村薫
中村薫

「ワーク・ライフ・バランス=楽な生き方、甘え」はカン違い

 「仕事をいい加減にして趣味や娯楽を優先するラクで甘えた生き方」がワーク・ライフ・バランスだと勘違いしていたらいけませんので、念のため冒頭にお伝えします。

 ワーク・ライフ・バランスを意識した生き方は、会社のワークと、家族の命や体を守るためのシリアスなライフとをダブル(介護も重なればトリプル)で真剣に取り組まねばならない、人口減少社会のハードな生き方を表現した言葉です。

 命を守るというと大げさに聞こえそうですが、産後1年未満に死亡した女性の死因で最も多いのが「産後うつ」による「自殺」というデータがあります(2015~16年、国立成育医療研究センター調査)。これから家庭を築こうとしている若い夫が妻を亡くしたら…しかもそれが自分が仕事を優先していたことが原因では? と悩んだ場合、夫の精神状態も心配になります。今後は会社の責任も問われる時代に向かっており、上司や同僚も「自分の配慮が足りなかったせいで人が死んでしまったのでは…」と悩み、周囲全体のメンタル低下、会社の収益減少…という悪循環が懸念されます。

 育児休業(以下、育休)制度などを効果的に取り入れることは、産後うつを防ぎ社員の命を守り、自社の存続のためにも欠かせない対応の一つということです。

 今年6月に育児・介護休業法が改正され、2022年4月から順次施行されます。今回の育児・介護休業法の改正は、特に男性の育児休業に関する改正やさまざまな義務化が盛り込まれているため、会社としても対応が迫られています。うっかり違法行為をしてしまわないよう、若い社員だけでなく、全ての社員、もちろん上司、役員等も昔のイメージを新しい情報で上書きしておく必要があります。

今回の改正ポイントは育児休業の柔軟化と義務化

 ここでいう「義務化」は会社側に課される義務のことで、社員に義務が発生するわけではありません。また会社が社員に「育休を取得させる義務」ができたわけではなく、育休に関わるいくつかの点が「努力義務」から「義務」になったといった改正のことです。

 ではかんたんにポイントを紹介しましょう。

  • 妻の出産後8週間以内に、夫は4週間までの育休が取得可能になります(以下、産後パパ育休)。休業中も夫が申し出ることで一定範囲内で働くことができます。
  • 育休・産後パパ育休に関する社員研修を行ったり、相談窓口を設けるなど、会社は育休等をしやすい環境を整備する必要があります。
  • 妊娠・出産を会社に申し出た社員に対して、会社は育休制度等について個別に確実に伝え、取得するかどうかの意向を確認する必要があります。
  • 育児休業の分割取得が可能になります。(1)の産後パパ育休も2回に分けて取れますし、従来の「1歳までの育休」も2回に分けることができます。つまり男性は合わせて4回取ることができるのです。女性は2回に分けることもできるため、仕事の状況に合わせてかなり柔軟に育休計画を立てられるようになるということです。
  • 1歳~1歳半、1歳半~2歳まで、保育所に入所できない等の事情により取得できる従来の育休延長制度についても改正され、開始時期を選べるようになります
  • 有期雇用労働者も過去1年以上の勤務歴がなくても育休を取得できるようになります。ただしこれは、子どもが1歳半になった後も引き続き勤め続ける予定の場合です。
  • 社員が1000人超の会社は育児休業の取得状況を公表する必要があります。

※上記は概要です。わかりやすくするために法律用語を一部変えて表現しています。また要件など詳細は省略してありますので、具体的には厚労省のサイトや社労士などに確認し自社に合った形で進めてください。

法改正後、上司・同僚がしてはいけない「こんなこと」

 今回の法改正は小さい会社も含めて経過措置がほぼありません。旧来の「社員の活動時間のほとんどを会社が強制買い取りする」ような働かせ方で、社員が疲弊し心身の健康を損ねたり、自殺してしまったりしては会社にとっても損失です。しかも「人口構造的に少子化の流れを止める最後のタイミングは今しかない」という意気込みで、大企業から中小零細企業まで社員の働かせ方を転換するよう促すのが今回の改正の目的かと思います。

 そのため上記の改正ポイントでも「する必要があります」という記述…つまり義務化された項目が多いわけで、以前はなんとなくスルーしていたかもしれませんが、これからは社員も情報収集しますから、会社が手抜きをすると会社が違法行為をしたといわれるリスクがあります。

 育休をめぐる社員間のやり取りにありがちな「こんなこと」のうち、言ったりしてはいけないケースをいくつか紹介しましょう。

・「うちには育休制度はない」

 これはマズイです。従来から法律で定められた制度ですので会社ごとに採用する・しないを選べるわけではありません。仮に就業規則に書かれていなくても、社員は育休を取得する権利があります。これまでは、権利があっても社内の雰囲気で育休を取りにくいといった現実があったかもしれませんが、そこが改正により「そもそも取得できる雰囲気作りをしなさい」という点が義務になりました。もちろん育休を取りたいと言ったり、実際に取ったりしても不利益な扱いをしてはいけません。

 上司として、同僚として、取得しにくい空気を醸し出すような社内文化がある場合は要注意です。

・有期雇用労働者に対して「勤め始めて間もないと育休取れないよ」

 従来は育休を取るのに1年以上の勤務歴が必要でしたがその縛りがなくなります。ただし事前に労使協定を締結するなどの要件を満たすことで勤務歴を条件にすることも可能です。一手間かかりますが、有期の労働者を雇っている場合で、就職後あまりすぐに取ってほしくない意向が会社側にある場合は事前の対策が必須です。

・産後パパ育休取得希望者に対して「◯日と◯日は出勤できるって申し出てね」

 会社は、産後パパ育休中の男性に対して所定労働日数・時間の半分を上限に働かせることができますが、それは男性が自由意志で「この日のこの時間は仕事できますよ」と申し出た場合に限ります。つい勤務日を指定したくなるかもしれませんが、本来は休業中ですから、いないものと考えなければなりません。その申し出を会社が強要しないよう注意しましょう。

・社員同士が普段から「育休って迷惑だから取得しないつもり」などと発言

 これは職場が育休取得を否定する環境になっていると捉えられ、今後法律上義務となる「取得しやすい環境整備」を怠っていることになる懸念があり、上司・役員・社員全体への研修や啓蒙が重要です。

 合わせて育休中の社員を補うため特定の社員だけが過剰に多忙になったりしないよう、日頃から複数の社員で仕事をフォローし合える体制づくりなど、なにかのときに業務が滞らない“強い会社”作りが望まれます。

 他にも注意点はありますが、ケースバイケースの側面もあり、全てを網羅することはできませんので、自社の社員・風土に応じた課題を整理し企業研修等で全社の意識共有を図ることが大切です。

法改正の時期と基本対応の流れ

 今回の改正は2022年4月から一度に全てが施行されるわけではありません。制度の開始時期がずれていますのでそれぞれの項目について、施行までに就業規則の改定などの対応しておく必要があります。各改正の施行時期を以下に整理してあります。

 これにあわせて自社の対応内容や作業時期を検討しましょう。

 なお労使協定は、たとえば産後パパ育休の申し出は本来2週間前までにすれば良いのですが、それを1ヶ月前までにするようにしたいときなど必要に応じて締結してください。また上記以外にも会社の状況により必要な項目、不要な項目などがあると思われます。詳しくは社労士等の専門家に相談されるのが良いでしょう。

 中小企業には無料で社労士等の専門家にアドバイスを受けられる仕組みが用意されています。リンクのリーフレットを参考に活用してみるのも良いと思います。

中村薫(なかむら・かおる) ファイナンシャルプランナー CFP(R)認定者
社会保険労務士
信用金庫勤務、生命保険営業、損害保険代理店での業務を通して、ふつうの人と業界との情報格差を実感。「老後資金の心配を軽減するためには公的年金の理解も必須」と社会保険労務士になり、年間約800件ほどの公的年金手続き・相談業務に携わる。FP相談ではおひとり様女性やリタイア前世代のライフプラン相談を得意とする。企業での研修、セミナー、執筆など多数。終活カウンセラーの資格ももつ。

【新時代のマネー戦略】は、FPなどのお金プロが、変化の激しい時代の家計防衛術や資産形成を提案する連載コラムです。毎月第2・第4金曜日に掲載します。アーカイブはこちら