大変革期のモビリティ業界を読む

生まれ変わりつつある自動車教習所 免許返納の高齢者に“電動ミニカー”販売も

楠田悦子

 クルマの運転免許を取得するために通った自動車教習所。クルマがないと生活できない地方都市の教習所では、運転寿命を延ばしたり運転免許証の返納後の移動手段を提供したりするなど、新たな役割に期待が高まっている。

 高齢社会のニーズを満たす教習所

 高齢者の免許返納は日本の社会問題として大きく取り上げられるようになった。しかし今、免許返納に直面している高齢者層の多くは、80歳以上。免許取得率も低い世代で、この問題はまだ序章に過ぎない。今後、毎年100万人レベルで交通弱者が生まれるとの予測もある。

 この交通弱者を救う方法として、公共交通の充実がある。しかし、残念ながら公共交通がカバーできないエリアも多くそれだけでは不十分だ。地方都市の実情を見れば、クルマを運転できる期間(運転寿命)をできるだけ延ばすか、もしくはクルマに代わるパーソナルモビリティを提供することも必要になる。

 運転寿命を延ばす方法として、自分の運転は安全であるかどうか確認してもらい、問題があれば改善するというものがある。来年から、違反のあった高齢ドライバーは、運転免許更新時に実車試験が導入されるが、対象となる高齢者以外の運転に不安のある人も、常に運転の評価を受けたり見直したりする必要がある。

 すでに運転免許取得者教育(高齢者ドライバーの身体機能の状況や、自動車等の運転に必要な適性検査などを行なう講習)などの仕組みがあるため、このような仕組みをうまく使って、評価や改善が一般的に行われるようになるとよいだろう。

 またクルマの運転が心配になる前に、高齢者に対してクルマに代わる公共交通やパーソナルモビリティの紹介を誰かがすべきだ。だが、それを誰も担えておらず、危険なクルマの運転を続けている場合が多い。クルマに乗れなくなるほどに認知、判断、操作機能が落ちると、“一人”で公共交通や自転車に乗って出かけられないのが実情だ。

 運転寿命の延伸やクルマに代わる移動手段の紹介などの高齢化社会のニーズを、クルマの運転の技能レベルを確認したり、技能を教えたりするプロ集団である全国の教習所が満たすことができるのではないだろうか。

 資格のある指導員、コースを擁し、学科を勉強する教室などを備え、道路交通法令の定める基準に適合し、公安委員会が指定した指定自動車教習所は全国に約1340施設ある。中でも福岡県大野城市の南福岡自動車学校はおもしろい動きをみせている。

 母体はこの南福岡自動車学校なのだが、ホールディングスの代表取締役社長を務める江上喜朗氏が経営を担うようになると、自動車学校の経営で培ったノウハウを他の事業に展開し、AIと自動運転の技術に着目した「AI教習所」、教育・モビリティ・地方創生事業などの事業を対象としたスタートアップの支援事業(ミナミインキュベート)、他の教習所へのコンサルティング事業(教習所サポート)など、一般の指定教習所では見られない新規の事業展開を行い始めたのだ。

 南福岡自動車学校は10月12日より、高齢者を対象にクルマに代わる移動手段の販売を、教習所が強みとする安全運転の指導とセットで開始すると発表した。筆者が知る限りでは、全国に先駆けた取組みだ。

 “ドライバー卒業”後もサポート

 この事業の担当者である同自動車学校教育部の高野優樹氏によると、毎年約5000人の高齢者講習(70歳以上の免許証の更新をする方が対象)を実施しており、クルマの運転が危険な高齢者もいる。しかし、公共交通が使える地域ではなく、いきなり最高速度6キロで走行するシニアカー(ハンドル形車いす)に乗るわけにはいかない。クルマが無いと生活ができなくなる人ばかり。だが、高齢者の移動の目的は、徒歩20分以内の距離にあるスーパー、コンビニ、病院などが大半で、買物袋などの荷物を載せることができればクルマである必要はない。いろいろな移動手段を提案していきたいが、まず電動3輪ミニカーと電動ミニカー4輪を販売することになったという。

 同校がクルマに代わる移動手段の選定基準として大切にした点は、安全に走行できる最高速度に設定できること、購入できる価格であること、生活の用が足せる積載があること、新たな工事をせずに自宅で充電できる電動であること、今持っている免許証で乗れることだ。

 販売する電動3輪ミニカー/4輪ミニカーは、アクセスが製造する3輪タイプの「シルド」シリーズだ。3輪タイプは、屋根なしの「シルド」、屋根付きの「シルドルーフ(屋根付)」の2種類。4輪タイプも屋根なしの「シルドLX4W」と屋根付きの「シルドLX4W ルーフ(屋根付)」の4つのモデルだ。

 4種類とも、最高速度は時速15キロの低速モード、または時速20キロの高速モードがあり、バック(後進)時は時速7キロに制限されている。速度が出ないので本人や家族も安心できる。満充電にかかる電気代は約20円で、航続距離40キロなので買い物や病院には十分だ。ミニカー登録であるため、普通自動車免許で運転でき、市町村に届け出するだけで、簡単にナンバーが取得できる(自賠責保険の加入が必要)。車検・車庫証明・ヘルメットの必要がない。

 地方都市では、クルマの免許返納後の移動手段を見つけることができた高齢者やその家族は非常に少なく、不自由を強いられている。南福岡自動車学校のように身近な教習所が、クルマのドライバー卒業後のサポートまでできるようになれば、一生涯移動に困らない暮らしが地方でも実現するのではないだろうか。

心豊かな暮らしと社会のための移動手段・サービスの高度化・多様化と環境を考える活動に取り組む。自動車新聞社のモビリティビジネス専門誌「LIGARE」創刊編集長を経て、2013年に独立。国土交通省のMaaS関連データ検討会、自転車の活用推進に向けた有識者会議、SIP第2期自動運転ピアレビュー委員会などの委員を歴任。編著に「移動貧困社会からの脱却:免許返納問題で生まれる新たなモビリティ・マーケット」。

【大変革期のモビリティ業界を読む】はモビリティジャーナリストの楠田悦子さんがグローバルな視点で取材し、心豊かな暮らしと社会の実現を軸に価値観の変遷や生活者の潜在ニーズを発掘するコラムです。ビジネス戦略やサービス・技術、制度・政策などに役立つ情報を発信します。更新は原則第4月曜日。アーカイブはこちら