■長生きのコツは自分を変えないこと
自分の本について語るなんて、そんなやぼなことはありませんね。自分の書いたものをわざわざ悪く言う人なんていませんよ。手に取ってもらいたいという気持ちがどうしたって生まれてくるでしょうし、私がとやかく言うことではないでしょう。
年を老いて思ったことを、まあ、いつ死ぬかわかりませんから、言うことは言っておこう、とただそれだけですよ。
私は、心に浮かんだ風景を墨で抽象的に表現する仕事をしていますが、まあ芸術なんて、この世にあってもなくてもいいようなもので、食べ物や着る物などのように、必要なものではないですよね。なくたって人は生きられるんじゃないでしょうか。世の中にあってもなくてもいいようなもので、私はお金をいただいて生きてこられたということは、非常に運がいいです。
食べ物や着る物が体の糧としたら、心の糧は、人はどういうものが必要なんでしょう。このごろ、そんなことをずっと反芻(はんすう)しています。一体、どういうものがあれば、人の心は安らぎ、生きる力のもとになるのでしょう。芸術は現実を忘れさせる力はありますね。たとえば音楽を聴いているときは、現実からちょっと離れている。スポーツ観戦も、心の安らぎではないけれど、夢中にはさせてくれる。