なぜ自衛隊は休むことを「命令」するのか ビジネスマンが知らない戦力回復とは (7/7ページ)

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  • 折木良一『自衛隊元最高幹部が教える経営学では学べない戦略の本質』(KADOKAWA)

 「第3段階」まで疲労が蓄積した人は、災害派遣からいったんリタイアしてもらうしかありませんが、結果的にはそうした人をほとんど出さずに済みました。メンタルヘルスを初めて組織的に実施したことがその大きな理由でしょう。

 「休む」ことの真髄は「戦略の成功確率を上げる」

 メンタルヘルス以外にも、阪神・淡路大震災の災害派遣では行なっていなかった「家族支援」も試みました。具体的には、家族説明会の実施、隊員家族への情報提供や相談窓口の設置、家族からの慰問品の受付などです。自衛隊員の家族の不安感を取り除くとともに、部隊への信頼感を高め、隊員が安心して任務に邁進できる態勢をつくりあげることが目的でした。

 各駐屯地や戦力回復センター内の掲示板には、被災者や国民からの感謝の声を貼り出しました。その言葉の数々が、守ってくれる仲間がいる、愛されている、必要とされているという、彼らの任務遂行の励みになったのです。

 もちろん、大震災への対応ほどには過酷ではないとしても、ある緊急性のあるミッションと、それと同時並行で進む日業業務をこなさなければならないビジネスパーソンにとって、「戦力回復」の重要性は論を俟ちません。政府が進める「働き方改革」もそうした観点に基づいているものでしょう。しかし「戦力回復」の真髄はワークライフバランスではなく、真に戦略の生産性、成功確率を上げる、という部分にこそあるのです。

 『自衛隊元最高幹部が教える 経営学では学べない戦略の本質』(KADOKAWA)では、そうした「戦力回復」について、さらに具体的にご説明しています。スキルを磨き、できるという自信をもち、仕事の成果を出す。同時にしっかり休んで、自分の体力や生き方に対する自信を深め、顧客や社会に不可欠な付加価値を提供して感謝されることで、必要とされている自信を身につける。

 そうした「三つの自信」を備えることで、疲労の蓄積の進行を科学的に抑えられる、という議論などがその具体例の一つですが、そうした考え方がさらに一般の戦略にも取り入れられ、日本企業の糧となっていくことを、心から願っています。

 折木良一(おりき・りょういち)

 自衛隊第3代統合幕僚長

 1950年熊本県生まれ。72年防衛大学校(第16期)卒業後、陸上自衛隊に入隊。97年陸将補、2003年陸将・第九師団長、04年陸上幕僚副長、07年第30代陸上幕僚長、09年第3代統合幕僚長。12年に退官後、防衛省顧問、防衛大臣補佐官(野田政権、第2次安倍政権)などを歴任し、現在、防衛大臣政策参与。12年アメリカ政府から4度目のリージョン・オブ・メリット(士官級勲功章)を受章。著書に、『国を守る責任 自衛隊元最高幹部は語る』(PHP新書)がある。

 (自衛隊第3代統合幕僚長 折木 良一)(PRESIDENT Online)