がん患者就労 地方、中小ほど労務対応不可欠 国立がん研究センター・高橋都氏

インタビューに答える国立がん研究センターがんサバイバーシップ支援部長の高橋都氏
インタビューに答える国立がん研究センターがんサバイバーシップ支援部長の高橋都氏【拡大】

 企業にがん患者が働き続けられるよう配慮する努力義務を課した改正がん対策基本法成立から1年。がんが2人に1人かかる国民病となる一方、治療法の進歩で仕事との両立可能性が大幅に広がりつつある中で、患者の就労は社会的関心の高いテーマだ。この分野に専門的に取り組む国立がん研究センターがんサバイバーシップ支援部の高橋都部長に話を聞いた。

 ◆地域・企業規模で差

 --がんを患った従業員への対応について、雇用を担う企業の関心は高まっているのか

 「企業は法律やコンプライアンスに敏感です。努力義務とは言えメッセージ効果は大きかったと思います。ただ地域や企業の規模で差もあります。大企業は病気休暇などの制度がありますが、中小企業は制度を整備する余裕がないところが多い。また地方だと労働力が限られます。簡単に代わりの人が見つからない状況に直面した経営者はがんを含め、働きにくさを抱えた人にも戦力として働き続けてもらう方策を切実に考えるようです」

 --がん宣告を受けた直後に仕事を辞めてしまう人も少なくない

 「年間100万人を超える人ががんになり、そのうち3人に1人が20~64歳の就労可能年齢です。またある調査では、離職者の4割が治療開始前に辞めていて、中でも診断直後の離職が一番多かった。いわゆる『びっくり離職』です。同僚に迷惑をかけられないと早々に決断してしまうようですが、あまりにも気が早すぎます」

 --医療者にももっとできることがあるのでは

 「全国のがん治療の拠点病院には相談窓口があって、ソーシャルワーカーや看護師が各種の支援制度などに関する情報提供や助言に当たっていますが、この相談窓口が案外知られていない。仕事に関しては、患者に必ず接する医師がまず『とりあえずやめない方がいい』とアドバイスし、相談窓口を紹介するだけでぜんぜん違うはずです」

 「医療者の最大の役割は適切な医療を安全に提供することで、就労支援の優先順位は高くないのが現状です。医療者はとても忙しいので、正直『この上、仕事のことまで目配りできるか』と思うこともあるでしょう。でも患者さんが経済的に行き詰まってしまったら治療だって中断しかねない。法律が改正され、企業も変わり始めました。医療現場にも工夫できることはあります。医療者は患者さん一人一人の社会生活にもっと目を向けてほしいと思います」

 ◆まずは相談を

 --患者には冷静な行動を呼び掛ける

 「労災なら会社がいろいろやってくれますが、私傷病の場合は、本人が会社に病気を伝えることから始まります。病気を告白すると左遷されたり解雇されたり、不利益を被るんじゃないかと悲観的になり、自己規制してやめてしまう人もいます。でも会社も訴訟リスクを考えれば、そう乱暴なことはふつうできません。もし会社に特別な配慮をしてもらう必要がないなら言わなくてもいいでしょう。ただ何か配慮してほしいと思う場合は、まずは社内の信頼できる人に相談してみることです。病気で一時的に業務効率が落ちるかもしれませんが、多くの人は一定期間がたてば回復します。その間どう補完するかこそ人事労務の腕の見せどころです。患者さんも、慌てず落ち着いて行動してほしいと思います」