岡目八目という言葉があるように、ある状況のなかにいると大局がみえない、ということは多くの人が知っている。しかし、だからといってこの事実を意識すれば、いつも大局が見えるというわけでもない。
先週、カリフォルニア美術大学でデザインを教えるバリー・カッツと話していた時の彼のセリフが頭に残った。
「デザイン思考はエンジニアがデザイナーの考え方を体系化したものだ。そして私はエンジニアが中心であり続けてきた世界、シリコンバレーのデザイン史を研究している」
そして今週、ミラノ工科大学でデザインを教えるフランチェスコ・ズルロの次の言葉を聞いた。
「私たちはイタリアデザインを体系化したカタチで、外の世界にコミュニケーションしきれていない」
そこでぼくは、「おたくの大学の経営工学のロベルト・ベルガンティは『デザイン・ドリブン・イノベーション』でイタリアのデザインの特徴と強さを説明したではないか」と指摘すると、「彼はエンジニアだから」とのコメントが返ってきた。実際、『デザイン・ドリブン・イノベーション』のベースになるリサーチにズルロも協力している。
もちろんデザイン分野の人間が書いたイタリアデザインの本は数多ある。だがベルガンティが描いたような風景、つまりは体系化という言葉を使うに相応しい表現でイタリアデザインを説明している人はあまりいない。