■公的救済の拡大を
事故は平成19年12月に発生。アルツハイマー型認知症で要介護4の認定を受けていた男性が線路に立っていたところ、電車にはねられ死亡した。22年、JR東海が振り替え輸送費用など約720万円の支払いを求めて提訴し、1審判決は妻と高井隆一さんに全額を、2審判決は妻にのみ半額の賠償をそれぞれ命じたが、28年、最高裁は賠償義務をすべて否定し、JR東海の訴えを棄却した。
最高裁第3小法廷は、単に「妻で同居しているから」「長男だから」などとの短絡的な責任追及を認めない一方で、同居の有無や親族関係、監護・介護の実態を「総合的に判断」すべきだという初判断を示し、賠償責任を認める余地も残した。被害回復を考えなければならないためだ。
判決後、認知症の人が「加害者」になった場合の損害を補償する民間保険が多く誕生。神奈川県大和市と愛知県大府市は、認知症の人が支払う保険料を公費負担する制度を導入し、神戸市は公費から給付金を出し、賠償する制度を、全国で初めて創設した。
しかしこうした施策を打ち出した自治体はほんの一部にすぎず、認知症の人の急速な増加には追いついていない。公的な救済策が、さらに広がることが望まれる。(加納裕子)