【著者は語る】内野逸勢氏「FinTechと金融の未来」


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 □大和総研金融調査部主席研究員・内野逸勢氏

 ■10年後の姿占い“変化の覚悟”問う

 FinTechに、修飾語のように用いられる“ディスラプティブ”という言葉があります。FinTech企業が既存の金融機関を“外側から破壊”していくことを指しますが、本書ではFinTech企業の“金融イノベーション”が、金融機関の“付け入られる隙間”を埋める事象としています。

 しかし、本書をベースに金融機関と意見交換をしていると、“内側から壊れていく脅威”があるとの声を聞きます。解釈すれば、稼ぐ力が構造的に低下していく中、FinTechの導入によって自ら究極的な効率性を追求すればするほど、これまでありえなかった金融機関としての自己の存在の否定につながりかねない。デカルトの“われ思う、ゆえにわれあり”になぞらえれば、“われ思う、ゆえにわれなし”ということでしょうか。

 金融機関が、FinTechを本格的にビジネスモデルの中に組み込む時代になってきていますが、同時に自身のレゾンデートル(存在意義)に組織全体として向き合う契機になっていると考えられます。本書では、FinTechから10年後の金融の未来を占っていますが、同時に既存の金融機関の“本質的な悩み”に焦点を当てているものだと実感しています。

 “本質的な悩み”とは何でしょう。本書の「金融イノベーション=キーテクノロジー×新たな発想×規範・規制」という単純な方程式で説明しましょう。ただし、掛け算であるため、マイナスの要素が一つあると負のイノベーションとなりますし、立場が違えば正負が違う可能性があります。例えば、顧客にはマイナスで金融機関にはプラスという付加価値の相反が想定されます。この点、FinTechが生み出す最大の付加価値と言われる“利便性”は将来のマス顧客にはプラスで、既存の主要顧客にはマイナスとなり、主要顧客の流動化の促進につながることになりかねません。

 さらに、時間的な制約もあります。本書の最後では、「10年後の未来予想図」を掲載しています。各金融業態別(銀行、保険証券、アセットマネジメント)に、既存金融機関の“機能”を新たな担い手(FinTech企業およびプラットフォーマー)が代替する可能性を示しています。業法の見直し、ロボットによる業務の自動化等が進められる中、金融商品・サービスのコモディティ化、業務の部品化というスピードが速ければ、短期間で新たな担い手が台頭する可能性が高くなります。

 既存金融機関は、冒頭で述べた存在意義を含めて検討した上で、自らが徹底的に変化していく“覚悟”が今後ますます求められていくような気がします。(2376円 大和総研・編著 日経BP)

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【プロフィル】内野逸勢

 うちの・はやなり 大和総研金融調査部主席研究員。1990年慶応大学法学部卒業、大和総研入社。金融調査部でFinTech、金融機関経営、地域金融、金融資本市場、グローバルガバナンスを中心に担当。2017年から現職。日本証券経済研究所「証券業界とフィンテックに関する研究会」で委員を務める。「JAL再生」(日本経済新聞出版社、共著)のほか、「FinTechから金融イノベーションへ」「10年後に求められる地方銀行の姿に向けて」「20年後の生保業界の行方」など、金融関連を中心に多数の著書がある。