夫の“たくらみ”に救われた 20年にわたって介護、イルカさん (1/2ページ)

「素直な自分をさらけ出して歌うようになった」と話すイルカさん(飯田英男撮影)
「素直な自分をさらけ出して歌うようになった」と話すイルカさん(飯田英男撮影)【拡大】

  • ソロデビューしたときのイルカさん(左)と神部和夫さん

 やさしい歌で、聞く人の心を癒やすシンガー・ソングライター、イルカさん。プロデューサーとして二人三脚で歩み、59歳で死去した夫の神部(かんべ)和夫さんを20年にわたって介護した。夫を看取(みと)った後、悲しみにくれるイルカさんを助けたのは、夫への思いと、やはり歌の力だったという。イルカさんに話を聞いた。 (広瀬一雄)

                   

 約20年、パーキンソン病を患っていたという神部さんだが、はじめは医者も原因が分からず、当時「パーキンソン氏病」と呼ばれた病気だと分かったのは、最初に体調が悪いと訴えてから3年以上たってからのことだったという。

 「次第に手や足がどんどん動かなくなっていき、一方で、薬をたくさん飲まなければならなかった。夫もつらかったと思います」

 さまざまな病院をあたった結果、北海道・旭川のリハビリ病院に入院することになったという。

 「友人の紹介でリハビリ病院の先生に診てもらうと、先生が『薬の量を減らしていってリハビリすれば、まだ若いから将来が変わる』と言っていただいた。『将来』という言葉を初めて聞きました。希望を持っていいということが、夫には一番うれしかったと思います」

 薬を減らしてリハビリを始めた神部さんは生き生きとしてきたという。イルカさんも旭川に部屋を借り、コンサートなどに向かうようになった。

 「歌をやめて介護に専念したいと言っても許してくれませんでした。夫の中では、妻である以前に『イルカ』なんです。20歳そこそこで、イルカの世界を完成させるため、自分はプロデューサーとして生きるって決めた人でしたから」

                   

 リハビリ病院での入院生活が7年間続いたあと、神部さんは平成19年3月に亡くなった。

 「手や足も動かず、話もできなくなっていきましたが、尊厳は最期まで失わなかった。そばで話していると、目の動きで、喜んでいたり、何かを話したいんだなとわかるんです。不思議ですね」

 長い入院生活で、覚悟もしていたというイルカさんだったが、悲しみは大きく、歌うことができなくなったという。「悲しみとともに、何だか気が抜けて。気が張り詰めていないと、声が出ない。休もうかとも思いました」

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