壁に掛けられたキーボックスも当時のままで、30室あった客室分がそろっていた。ボックスごとに部屋番号の紙が貼られていて、どれも色あせている。すでにはがれ落ちたのもある。そのままにしているからこそ、味わいもまた格別である。
レンガ造りの暖炉には、黒いすすが染み込んでいた。ホテルの営業は夏の間に限られていたのに、それでも肌寒かったのだろう。避暑地としての軽井沢が、ここからも見て取れる。
トイレが水洗なのには驚かされた。当時、水洗トイレが日本国内にどれほどあっただろうか。しかも白色のタイルが敷き詰められていて、ピカピカと光り輝いている。聞けば、タイルは英国製なのだそうだ。
スイートルームが1階に2部屋あって、ベッドや応接セット、洋服ダンスが置かれている。佐藤さんは、家具は当時のものなのだが、おそらくはこんな感じだったのだろうと配置した、と教えてくれた。