【著者は語る】『生と死の現場から 聖路加国際病院 救命救急医のメッセージ』


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 □聖路加国際病院副院長救命救急センター長・石松伸一氏

「一期一会」の現場で求められる対話力

 東京・築地にある聖路加国際病院の救命救急センターの応需率(救急隊からの患者受け入れ要請に応じた割合)は約90%と高い数字を維持しています。受け入れ側の救急部が長年にわたり「断らない救急医療」を追求してきたからです。公表されている中ではナンバーワンです。

 その救急部が設立されたのは1992年で、昨年亡くなられた日野原重明名誉院長の強い意向があったと聞いています。私が赴任したのは翌年でしたが、当時はずいぶん違和感を覚えました。院内は「救急部は救急部で勝手にやってください」「救急の患者は自分たちの患者ではない」と非協力的でした。

 今ではストレスなく当たり前のようにやらせてくれることも、当時はできませんでした。院内外で認められるようになった歴史を知る人が少なくなりました。私は創成期から現在までの歩みを知る数少ない存在として、若い部下に伝えることが必要と考え筆をとりました。

 同時に、救命救急センターを必要とする人が増えており、救急医療の現場とはどのようなもので、どのような課題を抱えているかを知ってもらいたいと考えました。

 救急車で搬送されてくる患者は年1万人強、自力(タクシーや家族などの車や徒歩)で来る人は約4万5000人います。この数は増加傾向にあり、在宅医療が進む流れの中で自宅で急に具合が悪化して救急車で運ばれてくる件数も増えていくでしょう。それだけ救命救急センターの役割が大きくなります。

 「一期一会」という言葉がありますが、救急患者と救急医の関係ほど似つかわしいものはないかもしれません。まさに生と死の現場で、30分前に救急車で運ばれてきた患者が30分後には一生のお別れになってしまうことも珍しくありません。

 しかも救急医療の世界にマニュアルや正解はありません。まずは患者の痛みを取り、不安を解消しなければならず、そのためには対話力が求められます。ただ単に病気やケガを診るのではなく、患者や家族の気持ちをくみ取る必要があるからです。

 本を読んで救命救急センターの現状や、働く人の思いが伝わるか分かりませんが、家庭でもビジネスの世界でも通じるものがあると思います。「理解できる」「分かる」といわれるとうれしい限りです。(1512円 海竜社)

                  

【プロフィル】石松伸一

 いしまつ・しんいち 川崎医科大医学部卒。1985年川崎医大付属病院勤務。93年聖路加国際病院、2005年救命救急センター長、13年副院長。宮崎県出身。59歳。