【ときを紡ぐ絵本 親子とともに】『ガオ』 木の実に心を寄せて

田島征三「ガオ」
田島征三「ガオ」【拡大】

 子供はネジや蓋、石や葉っぱ、木の実や小枝など、道端に落ちているものをすぐに見つけ、拾います。大人にとっては日常のありふれたものを、子供は大事に集めたり、並べたり、重ねたりします。色や形、大きさごとに分けたり並べたりもします。

 それは、子供がものの違いに気づいているからです。子供たちのものに心を寄せたかかわりはユニークで美しく、アート作品のようです。そんな子供たちが目を奪われた本があります。

 シロダモという植物の実を並べて描かれた写真絵本『ガオ』(田島征三(たしませいぞう)・作、福音館書店、平成13年)です。

 赤岩のてっぺんに住む山犬は、ある日、大声でほえたくなります。「ガオ」とほえると、体の中から飛び出した元気は恐ろしい鳥になり、元の体は6匹の蛇になります。鳥は5匹の蛇を食べます。1匹残った蛇が「ガオ」とほえると蛙(かえる)になり…最後は再び山犬になるという不思議なお話です。

 幼稚園の子供たちとこの絵本を読んだとき、絵本からの距離によって絵の見え方や味わい方が異なりました。近い距離の前にいた子供たちはすぐに「木の実だ!」と気づきました。その声を聞いて、後ろの子供たちは目をこらしました。一つ一つの実が集まってできた絵が自由自在に変化していく様子は、後ろにいる子供たちの方が「わぁ!」「すごい!」と面白がりました。

 クラスで読んだ後、子供たちは絵本を手にして1ページ1ページを食い入るように見つめました。色や輝き、質感など木の実の一つ一つの表情が異なります。時間の流れの中での木の実の変化や、季節の循環を見て取ることができます。

 作者の田島さんは、背景の上にピンセットで木の実を並べ、それを上から撮影し、並べ替えるという緻密な作業を繰り返しました。必要な色の木の実を得るには次の季節を待たなければならず、この絵本の製作には3年の月日を要したそうです。

 躍動感あふれる言葉が絵を一層ダイナミックにしています。この絵本が子供たちのアート心をかきたてたことは言うまでもありません。(国立音楽大教授 林浩子)