【痛み学入門講座】大口開けるのは禁物「顎関節症」


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 「顎(がく)関節症」は、口を開けたり、食物を噛(か)む時などに起こる顎関節部(耳の穴の前にある)、または頬(ほお)やこめかみの筋肉の痛みを特徴とする。加えて、口を開けることが制限され、進行すると2横指(指の横幅2本分)を開けることすら難しくなる。なお、口を開閉する際にカクン、コキンと特徴のある音(関節雑音、クリック音)を出す。

 『日本顎咬合(がくこうごう)学会』の調査では、わが国で顎関節症に悩んでいる人の割合は14・4%で、31~35歳の女性(女性が男性の2・7倍)に最も多くみられる。

 さて、顎関節とは、側頭骨の下顎窩(かがくか)、下顎骨の下顎頭(食物を噛む際に、耳の前で踊るように見える)との間に存在する関節のことである。この顎関節が正常に機能することで、下顎を上下(口の開閉)、前後(噛み砕く)、水平方向(すり潰す)に自在に動かせるのである。つまり、複雑な動きを強いられていることから、常に大きな負担を抱えているのである。なお、顎関節内には“関節円板”があり、クッションの役目をしている。

 この顎関節症の原因は外力によるもの、生活習慣によるものに大きく分けられる。外力によるものは、歯科や耳鼻科での治療、あくびなどで口を大きく開ける、爪や楊枝(ようじ)、筆記用具を噛む癖などである。一方、生活習慣によるものには、歯ぎしり、くいしばる癖といった“歯列接触癖”や片側での咀嚼(そしゃく)、頬づえ、スマートフォンの長時間操作などがある。

 本症では、関節円板の前方への転位(ズレ)が多くみられることから、歯の欠損などによる噛み合わせ位置の変化、歯科治療に用いる補綴物(ほてつぶつ)や充填(じゅうてん)物によって上下の歯が早期に接触していることなども原因と考えられている。また、性格が神経質なタイプの女性に多くみられることからは、ストレスや精神的要素の関与も推測されている。

 肩こりを伴っていることも多い。これは顎関節の痛みが咀嚼筋=咬筋(こうきん)、側頭筋、外側、内側の翼突筋=を緊張させて、その緊張が後頸部(ごけいぶ)の僧帽筋に影響を及ぼすことによる。

 治療は鎮痛薬投与などが中心となるが、関節円板の転位(骨の位置が本来の位置からズレた状態)が強い場合には徒手的円盤整位術、バイトスプリント術(マウスピースを歯にかぶせる)なども試みられている。私の施設では、顎関節内へ局所麻酔薬とヒアルロン酸ナトリウム、副腎皮質ステロイド薬の混和液を注入することで、良好な効果を得ている。さらには顎関節周囲の筋肉への局所注射、抗不安薬や抗うつ薬の服用が有効なことも多い。

 何はともあれ、男女を問わず、まずは大あくびをしたり、大口を開けて笑ったりすることを慎んでみてはどうか。(近畿大学医学部麻酔科教授 森本昌宏)