ホリエモンが演劇をアップデートする理由「僕の足を引っ張らない社会を作る」 (2/3ページ)

「定年後リーマン」があふれる社会

 「あいつは社長なのに何でスーツを着ないんだ」。僕もよくそう言われました。これが「同調圧力」です。就職活動でも「スーツを着なさい」と言われますよね。

 飲食しながら芝居を見たって別にいいじゃないですか。演者はマイクを付けて大声を出したり歌を歌ったりしているんだから、声は十分に聞こえますよ。結婚式の余興だってご飯を食べたり喋ったりしながら楽しんでいるので同じことです。全部は聞いていないにしろ、だいたいの内容は皆聞いていますよね。僕は演劇もそれでいいと思うんですよ。

 「何でホリエモンは芝居なんてやってるんだ?」。きっとそう思われるでしょう。でも僕はAI時代の働き方や生き方が気になっていて、それが今の活動のテーマになっているのです。僕はいろいろな活動をしていますが、ただ手当たり次第に新しいことに取り組んでいるわけではないのです。近未来の働き方や生き方がどうなればいいかを考えた結果なのです。

 簡単にいうと近未来では、定年後のサラリーマンが社会にあふれるという現象が起きると僕は思っています。20世紀型の社会の生き方は、大学を出て就職をして家族を持つ。そして子どもを作り、子どもが巣立った後に定年を迎える。そうなると自分が所属するコミュニティーが会社と家族しかないのです。この生き方の弊害はどこにあるのでしょう? それは同世代としかつるまないことにあります。これは日本の教育制度の大きな問題点です。定年後にどうなるか? 確かに配偶者はいるのかもしれませんが、全体の3分の1は離婚をします。もし会社というコミュニティーがなくなったら、その人は孤独になる可能性がありますよね。人間は孤独になると認知症になりやすくなります。今の認知症社会という問題には、この「定年後の孤独」が大きく関与していると僕は思っています。

 「定年後のサラリーマン」は数年以内に大量発生すると僕は思っています。そういう人たちが増えると社会が不安定になります。社会が不安定化し、不幸な人が増えると、社会は目立つ人の足を引っ張るようになる。そうなると、僕も困ります。また、僕の足が引っ張られるかもしれないですから(笑)。

 冗談抜きにしても、今フランスで起きているような暴動が起きるかもしれません。それは怖いと思っています。だから今のうちに社会を安定化させるべく、定年後のサラリーマンが大量発生するという問題を解決したいと思っています。だから演劇をやっているのです。

カラオケは世界に誇るべき「発明」

 カラオケを歌ったことのない人はいないですよね。でも50年前は、カラオケはありませんでした。僕は、カラオケは日本が世界に誇るべき「発明」だと思っています。なぜかというと、音痴の人でもカラオケは歌えるからです。当たり前だと思うかもしれませんが、実はこれはとても大事なポイントなのです。

 カラオケが生まれる前は、歌を歌える人というのは限られていました。歌を歌うには3つの条件があったのです。楽器を演奏できること、音痴ではないこと、歌詞を覚えていること、この3つです。この3つをクリアしないと歌は歌えなかったのです。しかし、皆さんもご存じの通り、カラオケが全てを解決しましたよね。つまりカラオケは、誰でも歌を歌えるようにしたのです。

 定年後のサラリーマンにとって、カラオケは重要なコミュニケーションツールになっています。「歌が好きだ」というだけで、世代を超えて仲間になれるからです。僕は演劇にもこのことが当てはまると思っています。なぜか? 演劇をする上で難しいのは台本を覚えることです。これがとても難しいのです。台本を覚えていないと演技に集中できません。だから素人が演技をするには、カンペがあればいいんですよ。モニターにせりふが流れるようにする「デジタルカンペシステム」を作ればいいのです。これは、実は今のテクノロジーでも十分に可能なのです。でもなぜ誰もやっていないのでしょう?

 理由は役者さんたちのプライドが高いからです。演劇とは「せりふをきちんと覚えるものだ」と思い込んでいるからなのです。先に述べたように、劇場で飲食をするのと一緒ですよ。「せりふを頭にたたき込むのがプロの役者ってもんだろう」と彼らは言うのです。でもミュージシャンは今、ステージに立つときは、プロンプターを使っています。彼らはカンペを見て歌っているのです。どんなに素晴らしい歌手でも歌詞を忘れることがあります。でも僕は、客が不自然に思わなければ、何をやってもいいと思っています。近い将来、メガネやコンタクトレンズに歌詞が表示されるシステムができるかもしれません。でもそれだけで演劇はアップデートされるのではないでしょうか。

演劇は年を取ってもできる