ミラノの創作系男子たち

シンプル=ベスト? 興味あるのはデザインの裏にある「事情」 (1/3ページ)

安西洋之

 シンプルこそがベストと言われる。量は少なく、難しいものは易しく表現する。それが王道だ、と。

 しかし、これを全てにあてはめてよいものだろうか。ダニエレ・ロレンツォンは、「そうではないはず」と語る。彼は1950年以降のアンティーク・デザイン製品を扱うビジネスをしている。

 「何ごとにもバリエーションがある。デザイナーの作品には必ずたくさんの派生モデルがある。それらを丁寧に追っていくと、そのデザイナーが派生の流れからふっと切りかわる、つまりレイヤーが異なる作品になる瞬間をみつけることができる」

 ぼくがダニエレと会った日、彼はパリで開催中のイタリア建築・デザイン界の巨匠であるジオ・ポンティの展覧会を見てきたばかりだった。展示のムード作りにはとても感心するのだが、陳列しているジオ・ポンティの作品が、カテゴリーの代表作品だけに絞られシンプルであり、派生型が展示されていないために分かりづらい、と感じたそうだ。

 ダニエレは過去のデザイナーの作品を数多く見て集める。それも1人のデザイナーの派生型だけではなく、材質や製品カテゴリーでもそうだ。例えば、木あるいはメタルがどれだけ使い方にバリエーションがあるか、過去、多くのデザイナーが灰皿を作ったがそれらがどう違うか。これらを見極めるのが好きなのだ。

 だからパリのジオ・ポンティの展示には不満が残った。

 彼の言葉から察するに、大きな声で叫ぶ(今風の)「チェンジ」や「イノベーション」をあまり信用していない。変化には必ず、バリエーションの連続とジャンプを予兆するポイントがあり、実物を手にしながらデザイン史を見てきたダニエレの自らへの信頼の拠り所は、このポイントへの嗅覚にある。

 彼はデザインの勉強をしたが、それまでやや寄り道をした。

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