米フロリダ州で、過去10年間で最悪の赤潮が発生し、イルカ、ウミガメ、マナティーなどの死骸数百トンが回収された。この事態を受け、同州のリック・スコット知事は7つの郡に非常事態を宣言した。赤潮を引き起こしたのは、メキシコ湾に生息する単細胞微生物「カレニア・ブレビス」。この微生物は増殖中に強力な神経毒を放出するため、海洋生物だけでなく、海岸線の住民にも頭痛や咳(せき)などの健康被害が出ている。冬季に入り、被害は一段落しているが、水温が高くなってくると被害がさらに拡大するおそれがあると同州は警告している。
プランクトンから神経毒
カレニア・ブレビスは、海洋性の渦鞭毛藻(うずべんもうそう)類の一種。単細胞の植物プランクトンで、形状は扁平(へんぺい)で2本の鞭毛(毛状の細胞小器官)により水中を回転しながら遊泳する。強力な神経毒ブレベトキシンを放出することでも知られている。
世界各地の沿岸域に分布し、特にメキシコ湾やフロリダ近海に多く存在している。日本近海でも確認されている。カレニア・ブレビスが大量発生した場合、その毒素により海洋生物や海鳥の大量死が起きている。
人間にとっても有害で、その神経毒が筋肉を異常に収縮させ、免疫システムに影響する。カレニア・ブレビスを取り込んだ魚を食べることは危険で、通常の調理方法では解毒できない。
さらに問題なのは、神経毒のブレベトキシンは煙霧状になりやすいことだ。カレニア・ブレビスが波によって分解され、空気中に放出された毒を吸うと人間の呼吸器系に影響を与え、目、鼻、のどがヒリヒリし、咳が出たり呼吸がゼイゼイしたりしてくる。そのためフロリダ州政府は、海岸に続く道に「健康被害」に関する看板を立て、海岸に近寄らないよう警告している。
最近の研究によると、こうした被害を与えるのはカレニア・ブレビスだけではないことが分かってきた。有毒な藻類「シアノバクテリア」も増殖しており、これらが複合汚染を助長しているかもしれないと専門家が指摘している。海洋生物などの大量死により、フロリダ州の海岸線では悪臭が充満している。フロリダ州魚類・野生生物保護委員会によると、人魚のモデルとも言われ、海の人気者として知られるマナティーの死亡数は、過去最高を記録した2010年(766頭)を超えるとみられている。