【痛み学入門講座】「漢方薬」体質改善で病気を治す

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 落語の枕に『葛根湯(かっこんとう)医者』というのがある。「先生、頭が痛いんです…」「頭痛だな、葛根湯をお上がり」「おなかが痛いんです…」「腹痛だな、葛根湯をお上がり」といった具合にである。今回は、この“葛根湯”に代表される漢方薬について紹介する。

 2千年以上昔の中国で生まれた中医学(中国漢方)が、5~6世紀にわが国に伝わり、その後独自に発展してきた。したがって、これらには「日本漢方」「和漢医薬学」との呼称が用いられており、すべての総称が「漢方」であると理解してほしい。この漢方の考えに基づいて作り出された薬が漢方薬である。

 痛みの治療に広く用いられている西洋の薬は、原因が明らかな痛みには良い効果を挙げるが、痛みの原因が分からなかったり、慢性化した場合などには、十分な効果を示さなかったりすることがある。このような場合や“未病”(病気と健康の状態の境目)に対しては漢方薬の出番となる。西洋医学では病気(病名)に対して薬を処方するが、漢方では病気は“体のゆがみ”によって起こるとし、そのゆがみを治すことを主目的としている。つまり、体質を改善することで、病気を根本から治し、さらには予防しようと考えているのだ。

 さて、漢方薬とは、自然の草根木皮から成る“生薬(しょうやく)”(この生薬を“味”と呼ぶ)をいくつか組み合わせたものであり、その生薬の組成比が厳格に決められている。たとえば、前述の葛根湯(「風邪」のひき始めや「肩こり」に用いる)には、七味の生薬=葛根、大棗(たいそう)、麻黄(まおう)、甘草(かんぞう)、桂皮(けいひ)、芍薬(しゃくやく)、生姜(しょうきょう)=が一定の比率で含まれているが、これらのうち葛根はこりをほぐして頭痛を取り去り、麻黄は発汗を促して発熱を軽快し、咳(せき)を鎮める作用を有しているのだ。

 漢方薬の処方にあたっては、中医学的な四診(望診、聞診、問診、切診)によって情報を集めたうえで、“虚実(きょじつ)”“陰陽(いんよう)”“寒熱(かんねつ)”“気血水(きけつすい)”といった独自の概念でその整理を行い、患者さん一人一人の“証(しょう)”を決定する。たとえば、虚実は病気に対するその人の抵抗力、体力の充実度を指すもので、“虚証”は腹筋が柔らかく、脈が弱く、疲れやすい状態、“実証”は体力が充実して、腹筋の緊張が強く、脈が力強い状態、その中間が“中間証”である。このように漢方薬の処方を決定するにあたっては、症状や体格、胃腸が丈夫か否か、どこに冷感があるか、などきめ細かな配慮が必要となる。

 きっと、あなたの痛みに合った漢方薬があるはず。それには専門の医師に相談して、適切な漢方薬を処方してもらうことである。(近畿大学医学部麻酔科教授・漢方指導医 森本昌宏)