主張

超高額薬の登場 保険の役割考える機会に

 患者から免疫細胞を取り出し、遺伝子操作でがん細胞への攻撃力を高めて体内に戻す新しいメカニズムの治療製剤「キムリア」に公的医療保険が適用され、3349万円の価格が付いた。

 ある種の白血病と悪性リンパ腫(しゅ)の再発患者が対象だ。これまでの治療法では成果が期待できなかった。それぞれの疾患で約8割、約5割の高い効果が見込める。致命的な疾患での命の延長だ。

 朗報だが、副作用も大きい。医療機関を限定して慎重に投与していく。適切な判断だ。丁寧に進めてもらいたい。

 価格に注目が集まっている。1剤の価格としては過去最高だ。多くは健康保険料や税などで賄われ、患者個人の負担は平均的な収入の人なら40万円程度で済む。

 医療費の膨張を懸念する側からは、めったに使わない高い薬への公的医療保険の適用を見直すべきだ、との意見も出る。

 だが、対象患者は年216人にとどまり、市場規模は72億円と予想される。財政影響は1剤の価格だけでなく、患者数に大きく左右される。厚生労働省は医療財政への影響を限定的と見ている。

 今後も高額薬の登場が予想されている。薬価制度改革で薬の値付けは適正化が進んだ。しかし、財源が限られる中で医療費をどこに重点化するかを考える機会かもしれない。

 人生には、思いがけず大きな病気やけがに遭遇することがある。高額でも、確実に効果のある治療があるなら、誰でも使えるようにすることは、公的医療保険の重要な役割だ。

 いざというときに高い薬を使うためには、医療用の湿布やビタミン剤といった日々の薬の使い方を見直す必要も出てきそうだ。患者数が多く市場影響は大きい。

 もちろん大きなリスクに対応する薬でも、価格が適正かどうかは厳しく問われるべきだ。製薬会社は薬の価格に説明責任がある。

 取り組みは始まっている。厚労省は今年度から、薬剤の価格が効果に見合うかどうか本格的に検証する。キムリアも対象になり、価格が効果に見合わなければ引き下げられる。

 フランスや英国では、検証結果を薬の価格調整や保険適用の可否などに使っている。プロセスを明らかにし、薬の価格に納得感を得ることも重要だ。

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