滞在型観光への転換は観光庁も提唱している。経済への波及効果が大きく、地元との交流も期待できるからだ。観光客に滞在してもらうには「泊まる場所と食事、翌朝から回るスポット」が重要と担当者は指摘する。
奈良県は東大寺、奈良公園などの名所を抱えながらホテルが少なく、宿泊客を大阪や京都に奪われてきた。そこで県は宿泊施設の改修補助、関連業者の税制優遇、開発許可の審査基準緩和といった対策を展開。最近はホテルの客室数、外国人の宿泊者数とも増加している。
滞在時間が増えたことで、食事や買い物といった外国人旅行客の消費額は2014年の約123億円から17年は約171億円に拡大。ただ日帰り客は依然多く、県の担当者は「奈良の歴史や文化への関心は高いが、宿泊施設や食事場所は十分とは言えない。まだ伸びしろはある」とみる。
人気呼ぶ農家体験
茨城県のほぼ中央にある茨城町は有名な観光スポットがなく、かつては訪日客もまばらだった。しかし15年から始めた農家民泊が人気を呼び、18年度は約400人が利用した。9割近くが米国やタイなどからの修学旅行生だった。
農家民泊を受け入れているのは約40世帯。郷土料理を味わったり、田植えやシジミ漁を体験したりといったプログラムを用意した。「日本の家庭生活を楽しめる」と口コミで広がり外国人が増加。リピーターとなった学校もあるという。
受け入れ世帯の収入増にもつながっており、運営団体の清水勝利会長は「こんなに外国人に受けると思わなかった。長く滞在してもらえれば、町や周辺を巡る機会につながる」と歓迎する。