ゆうゆうLife

家族がいてもいなくても(613)備えあれば憂いなし

 食堂で、入居仲間とご飯を食べていたら誰かが言った。

 「明日、消防設備の点検があるよね」、「えっ、そうなんだ」とつぶやいたら、「今月の予定表に書いてある。去年もやったでしょう」と教えられた。その去年の記憶がないのは、どうも留守にしていたせいのようなのだけれど、こんなふうに私にとって大事な情報はみな食堂の団欒(だんらん)からやってくる。

 この時、緊急通報機の点検もするよ、と聞き、以前から緊急時にフロントのスタッフと話す方法を習得しなくちゃなあ、と思っていたので、翌日は散歩にも出ずに部屋でおとなしく仕事をしていた。

 ところが、昼ご飯をパスして、パソコンに向かっていると、私はいろんなことを忘れがちになる。午後になって、いきなりドアホンが鳴り、ハウス長と作業着姿のおじさんが現れたせいで、なにごとか、と狼狽(ろうばい)してしまった。

 「大丈夫、大丈夫、緊張することじゃないっから」

 長い棒の先に漏斗(じょうご)のようなものがついた器具を持ったおじさんが、にこにこしながら、ずかずかと部屋に入ってきた。

 長い棒はなにをするものかと思ったら、天井についている火災警報器の点検器だった。土間、給湯器スペース、キッチン、脱衣スペース、トイレ、リビング、寝室、納戸。

 「ほら、ここにも、あそこにも」と言いながら、彼は、部屋中をまわって火災警報器を点検した。なんとこれが14坪の小さなわが部屋に8個もついていたのだった。

 おかげで、元の家にもこの警報器が付いていたのに、一度も点検なるものをしなかったことに、今さらながら気づいてしまった私だった。

 それから、ハウス長の指導のもと、お風呂の赤い非常呼び出しボタンを押してみたり、壁に下げてある緊急ペンダントを鳴らし、居間のアイホンでフロントとの応答の練習をしたりした。

 これが、結構難しい、赤が点灯しているときに喋(しゃべ)らないと通じないとか、緊急ペンダントとの電池切れに気を付けるとか。入居時に説明を受けたはずだったのに、案の定、私にはまるで身についていなかった。

 よく非常ボタンをまちがって押す人がいて、それが、いざというときの予行練習にもなっているのよ、なんて話も聞いた。

 けれど、私は、わが共同住宅の緊急通報システムの万全さに納得し、感心もした。

 なかなかに有意義でかつ刺激的な一日だったのである。(ノンフィクション作家・久田恵)

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