2歳以降の給食は「バイキング形式」
「自分自身について考える」
これ、あまり子育ての場面で語られませんが、とても大切なことだと思います。
自分の心と身体に向き合うって、健やかに生きていくうえで絶対に必要ですから。
うちの園では「自分について考える機会」をつくるため、2歳以降の給食はバイキング形式としています。自分でなにをどれだけ食べたいか考えて、調整してもらう。バイキングは、子どもが己を知る練習なのです。
お母さんたちは「先生、うちの子はバイキングなんて経験がありません。うまく選んで食べられるでしょうか……」と心配されますが、大丈夫、どの子もはじめはうまくいきませんよ。お皿に取りすぎちゃって、ぜんぜん食べ切れない子。ひと種類だけ、たっぷりよそっちゃう子。食が細く、ほぼ食べない子。いろいろです。
でも、そういうときも、ああだこうだと指示を出したりしません。
「今日の量じゃあ、多すぎたんだね」
「いっぱい食べたかったんだね。でも、ほかの子の分がなくなっちゃわないかな?」
「少しずつでもいろいろ食べると、お昼も元気に遊べるよ」
そんなふうに声をかけていくと、だんだん上手に調整できるようになっていきます。
「食べねばならぬ」の幼児教育に支配されていた
一般的に、給食と言えば決まった献立を、決まった量で提供するでしょう。そうすると栄養バランスも取れますから、理に適(かな)っています。
それなのに、うちはなぜバイキング形式にしたか。
まず、食事は強制されるべきことではなく、楽しい時間であることが基本だからです。
そしてやっぱり、子どもには自分のことを自分で決める力があると信じているから。
大人だって、「今日はパン一つでいいや」と思う日も、「ああお腹が空いた、モリモリ食べたい」と思う日もあるでしょう。好き嫌いだって、多少はあるでしょう。
子どもも同じです。毎日、みんなと同じメニューを同じ量だけ食べさせられる。それがあたりまえというのは、ちょっとおかしいなと思うのです。
……と、えらそうなことを言っていますが、私も以前は昔ながらの保育をしていたおっかない保育士でした。
ちんたら食べる子どもを急かして、みんなが昼寝に入っても食べさせて、最終的には残りを口の中に突っ込んで布団に寝かせる。いま思えば窒息しかねないし、よくそんなことをしていたな、とおそろしく思います。
「食べねばならぬ」の幼児教育に支配されていたんですね。
一生懸命で、その子のためを思ってのことでしたが、「食べる」が楽しい体験にならなかったのは明らかです。保育園そのものに、イヤな記憶を持ってしまったかもしれない。申し訳ないことをしました。
「身体や心の声」に気づける子を育てる
そんな保育に対して「おかしい」と声を挙げたのは、幼児教育のヨの字も知らない、完全なるシロウトだった次男、つまり園長です。
「そりゃ、無理やり食べさせたら栄養は偏らないかもしれない。けど、食事にはもっと大切なものがあるだろう」
はじめは「そんなこと言ったって、栄養が……」とか「保育の常識では……」と思いましたよ。できっこないって。
でも、バイキングをはじめてみて、子どもたちの表情を見れば、どちらが幸せかは一目瞭然でした。
お母さん、お父さん自身も、時間だからとなんとなくごはんを食べていませんか。
ほんとうにお腹が空いているか、食べる必要があるのか、なにが食べたいか。ぜひ、あらためて意識してみてください。
「最近、自分の内側の声に耳を傾けていなかったわ」と気づくかもしれません。
もちろん、食欲だけではありません。今日の体調は。心の様子は。調子はいいか。無理をしていないか――。
自分自身を見つめる習慣がついていないと、身体や心の声に気づくこともできません。子どもには、早いうちからその習慣を身につけてほしいと思っています。