終活の経済学

お寺のトリセツ(5)グリーフケア

 ■僧侶は「悲観回復」の専門家

 身近な人の葬儀。お布施を受け取った僧侶を、とっとと帰してしまうのはもったいない。引き留めてみよう。僧侶が遺族の悲しみや悩みの相談に乗ってくれるはずだ。グリーフ(悲嘆)ケアや悩み相談に当たる僧侶の活動も知っておこう。

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 大切な人の死別を経験すると、その人に対する思いや感情など「喪失感」に心が占有される。一方で落ち込んだ心を「立ち直らせよう」と努力する。この「喪失感」と「立ち直ろうとする気持ち」の間で心が揺れ動くと、身体的にも精神的にも不安定な状態になる。これを「グリーフ」という。グリーフの時期にあるときは、「死とは何か」「生きるとは何か」「自分とは何か」など、たびたび答えのない問いに苛(さいな)まれることになる。

 こうした状態にある人に、さりげなく寄り添ったり、援助をしたりすることを「グリーフケア」という。1960年代にアメリカで提唱された概念で、日本では2000年代に入ってから広まってきた。

 ◆法事

 グリーフケアは、家族や親族、友人、知人、医療関係者、精神科医やカウンセラーが担うことが多い。

 だが、元来、仏教や僧侶は、法事や法話に代表されるようにグリーフケアの役割も担ってきた。法事の初七日、四十九日、三回忌、七回忌…といったものは、時間の経過とともに、遺族の心情が移り変わる節目となる。そして僧侶は、法事を通じてそんな節目に立ち会うことで、遺族の心の状態などを見ながら法話をしてきた。

 だから、どんな僧侶もグリーフケアの専門家のようなものなのだ(もちろん例外的に“ダメな僧侶”がいることは否定できないが…)。普通の僧侶なら時間が許す限り、真摯(しんし)に悩みの相談に応じてくれるはずだ。

 お寺によってはグリーフケアが必要な参加者を募って定期的な会合を開いているところもある。

 ◆電話相談

 直接お寺に行ったり僧侶に相談したりするのが憚(はばか)られるという人には、「電話相談」という方法がある。仏教の各宗派、あるいは宗派を超えた僧侶の団体が、電話相談窓口を開設している。

 そこでは、傾聴(理解できるまで話を熱心に聴く)専門の担当僧侶が、電話口で相談に応じてくれる。曜日、時間はそれぞれだが、対面せずに相談でき、その場で回答を得られるのが大きなメリットだ。

 ◆ラジオ番組

 「仏教ラジオ」というと法話や説法など、一方向的な内容はたくさんあるが、リスナーからの悩み相談に応じている番組もある。

 名古屋を中心としたエリアを持つCBC(中部日本放送)の「ラジ和尚・長谷雄蓮華のちょっと、かけこみませんか」(日曜8時45分~)や、KBS京都の「川村妙慶の心が笑顔になるラジオ」(土曜8時~)などだ。

 ラジオ局にメールで相談内容を送ると、回答を得られる。電話相談と違い、回答する僧侶がどんな人か分かりやすいのは安心材料の一つかもしれない。が、番組側に投稿内容を採用されなければ回答を得られない。

 ちなみに…、『終活読本ソナエ』編集部もOBC(ラジオ大阪)で「終活ラジオ ソナエ」(土曜18時30分~)という番組を絶賛放送中ですが、未熟なので人生相談のコーナーはありません。

 ◆ネット窓口

 インターネットの相談窓口もある。サイト上に悩みを打ち込むと僧侶が回答してくれるサービスだ。

 有名どころは「hasunoha(ハスノハ)」や「お寺ネット」。

 「ハスノハ」は、回答僧侶のほとんどが実名登録。240人ほどが参加している。プロフィル写真も掲載しているので、どのお寺のどんな僧侶が回答してくれるのかが分かる。相談者はサイトに登録し、質問や悩み投稿すると、登録僧侶が回答。どんな僧侶が回答してくれるかは決められないが、複数の異なる宗派の僧侶から回答を得られることもある。

 「お寺ネット」は回答僧侶の多くが匿名で20~100人ほどが参加している。こちらは相談者側に登録作業がいらない。質問や悩みに対し、双方向にやり取りをしながら問題解決していく仕組みだ。

 「悩み」と「回答」の蓄積がたくさんあるので、同じような悩みを抱えている人への回答を閲覧するだけでもいいかもしれない。

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 ■門戸を開く超宗派の挑戦 落語会、ボサノバ…誰でも参加しやすく

 全国には7万以上のお寺があるのに、宗派の垣根を越えてお寺が協力し合う例は少ない。だが、金沢市の伝統的寺院が集中する野町・寺町地区では、宗派を超えた寺院僧侶が協力し合って「寺町台寺活協議会」を立ち上げ、誰でも参加できるイベントを次々と繰り広げている。

 活動をしているのは、西方寺(天台真盛宗)、長久寺(曹洞宗)、承証寺(法華宗本門流)、伏見寺(高野山真言宗)、雨宝院(高野山真言宗)、眞長寺(高野山真言宗)、大蓮寺(浄土宗)、弘願院(浄土宗)、寳勝寺(臨済宗妙心寺派)、妙法寺(日蓮宗)の7宗派、10カ寺。

 これまでに開催したのは、「ラフターヨガ(笑いヨガ)」、仏壇屋の蒔絵(まきえ)師を講師に招いた「蒔絵作り体験」、僧侶で落語家の露の団姫さんによる「おてらくご」、「風鈴作り」や本堂でのボサノバライブ「BO♪SSANOVA(坊さんの場)」など。「介護相談」「相続手続き支援」といった人生相談セミナーなども開いている。

 法話会では、壇上に宗派の異なる僧侶が並ぶため、参加者から「袈裟の違う理由」や「お経の違い」など、単独の寺院のイベントでは聞けない疑問も飛び出す。

 妙法寺の出島元寿副住職は「当初は、地域の方々に向けての活動でした。いまではお寺が中心になって金沢の文化や芸術を守っていこうという思いも重なり、より積極的に打って出ています。観光客にとっても、お寺に触れる契機となればうれしい」と、活動のフィールドを、宗派や地域の壁を打ち破った先にまで見据えている。

 子供がいないなどの理由で、自分自身の弔いをしてくれる家族のない人が急速に増えている。お寺がそうした人の「弔われない不安」を解消することをサポートしようと、寺院コンサルの「寺院デザイン」(薄井秀夫社長)が中心になって「日本弔い委任協会」を発足させた。2019年4月に開かれた第1回の「弔い委任講習会」には、予想を大きく超える50人の僧侶が全国から集まり、人々の「弔われない不安」を解消する仕組みを学んだ。

 「弔い委任」とは、葬儀・納骨など死後に必要となるさまざまな事柄を、檀家がお寺などに委任し、実行してもらう仕組み。僧侶は、儀式を執行するだけでなく、喪主の代わりも行う。遺産整理、家の片付け、保険の精算などにも関わることになる。

 講習会に参加した僧侶は、「子供のいない人が、自分の葬式のことでお寺に相談に来ることが増えている。こうした方々を無視できない」と受講の理由を語っていた。薄井さんは「反響の大きさに驚いた。弔い委任が広がり、多くの人が寺を活用し始めれば、ただ葬儀だけをしていたお寺の役割は大きく変わっていく」と語っている。(『終活読本ソナエ』2019年夏号から、随時掲載)

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