TOKYOまち・ひと物語

夜間・休日の緊急時に往診 ファストドクター代表、医師の菊池亮さん

 診療所やクリニックなどの地域の医療機関が休診となることが多い夜間や休日。急に具合が悪くなったとき、対応に困る人も多い。「ファストドクター」(新宿区)はこうした緊急事態に、救急の往診などの新たな選択肢を提供する。代表取締役で医師の菊池亮さん(33)は「救急車や救急外来の適切な利用をサポートしたい」と話す。(小林佳恵)

 自力では困難

 総務省消防庁の速報値によると、平成30年中の救急車の出動件数は前年比4.1%増の660万5166件で、9年連続で過去最多を更新した。搬送者の約半数が入院を必要としない軽症と診断されており、不要不急の出動の抑制が課題となっている。

 なぜ、軽症患者による救急車の利用が後を絶たないのか。同年中の搬送者の約6割は高齢者で、菊池さんは「患者のモラルの問題だけではなく、単身で暮らす高齢者など、自力で医療機関にアクセスできない人もいるのではないか」と分析。「大都市部ではものすごいスピードで高齢化が進んでいくとみられる。限られた医療資源の中で、高齢者の救急受診を支援する新たな仕組みが必要だ」と指摘する。

 ファストドクターは電話やメールで診察依頼を受けると、まず電話で症状を聞き、自宅での経過観察や往診など緊急性を判断する「トリアージ」を行う。往診が適用されるのは3割程度だ。

 往診が必要と判断すれば医師が自宅まで医療器具や薬を持って最短30分で駆けつけ、診察や検査を行う。

 東京と大阪に拠点があり、都内は23区と三鷹市など4市が往診エリア(一部地域はエリア外)だ。

 「かかりつけ医が対応できない間のつなぎの存在でありたい。かかりつけ医がおらず、病院へもアクセスできないという人には手を差し伸べたい」。菊池さんはこのように考えている。

 押し寄せる患者

 日本の救急医療は、その日に家に帰れる「初期救急」、入院が必要な「2次救急」、交通事故などを扱う「3次救急」のピラミッド構造になっている。

 菊池さんはこうした救急医療の「棲み分けができていない」ことが問題だと考えている。大学病院で当直勤務に当たっていたとき、軽症を含む多くの患者が押し寄せる中、医師や看護師の人数は限られており、患者の受け入れを断らざるを得ないこともあった。

 一方、別の病院では、ある重症患者をより規模の大きな病院へ転送したいと依頼した際、19件断られるという経験もした。「3次救急の医療機関が重症患者に専念できるようにすべきだ」との思いは強くなっていった。

 こうして平成28年、ファストドクターを設立した。地道な活動が共感を呼び、現在は300人を超える医師が業務に関わっているという。

 「今後は、初期救急を担う地域の医療機関が、夜間に救急外来を運営するサポートもしていきたい」と菊池さん。一人でも多くの患者が、適切な医療機関で、迅速な救急医療を受けられるように-。「既存の医療の隙間を埋め、患者も医療者も支えられたら。『ファストドクターに相談すればどうすればよいか分かる』と言ってもらえるような存在になりたい」

 ファストドクターの診察依頼は(0120・265・190)まで。

Recommend

Ranking

アクセスランキング

Biz Plus