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休校長期化「もう限界」 各地で延長 教育格差の拡大懸念

 新型コロナウイルス感染拡大に伴う休校が長期化する中、休校日数や遠隔授業の実施状況が自治体間でばらつきがあるため、児童生徒の学習状況などに格差が生じる懸念が高まっている。多くの教育委員会は5月の大型連休後に学校を再開する方針を示しているが、既に各地で休校期間延長の動きは広がっており、先行きは不透明だ。特に受験生への影響が懸念され、学校からは「もう限界。さらなる休校延長は厳しい」と悲鳴が上がる。(福田涼太郎)

 「5月中旬までに学校を再開できれば夏休みの短縮や土曜日の補習で何とか遅れを取り戻せるが、それ以上は厳しい」

 東京都多摩地区の公立中の校長は、そう漏らした。

 4月6日の始業式後、休校中の同校では各学年1回ずつ設けた登校日などに教科書や課題のプリントを配布し、ホームページでも課題をアップした。だが、生徒に学習効果が出ているのか、課題を解いてくれたのかさえも確認できない。

 インターネットを通じた課題の配布・提出や遠隔授業に役立つタブレットなどICT(情報通信技術)機器は、整備が遅れているため活用できず、双方向でコミュニケーションを取る手段に乏しいという。

 高校入試を控える中学3年生にとって事態はより深刻で、校長は「公立小中学校の良さは全国どこでも同じ教育を受けられること。差が付くような状況は良くない」と指摘。入試の公平性を担保するよう求める。

 一方、タブレットの児童生徒「1人1台」を実現している渋谷区の区立上原中では、自習用の教材を含め課題の配布も提出もネットを通じて実施。授業動画の配信も始める予定だ。

 同校も始業式後は休校が続くが、副校長は「学校再開後、休校中に課した学習内容には再び時間を費やさないようにしたい」と、質の高い遠隔授業を目指す。

 小学校でも格差への懸念は同様だ。登校が4月10日までだった栃木県真岡(もおか)市立小5年担任の男性教員(40)は「通常は4月中に小数第3位まである数字の概念や計算を学ぶが、全くできていない」と漏らす。同県では自治体ごとに休校期間や再開予定時期が異なっており、ICTの整備状況に関係なく、同じ県内で学習の習熟度に差が生じる恐れがあるという。

 この教員は学習以外に、クラス替えを挟んだ時期の休校となったことによる教員と児童との間のコミュニケーション不足も心配する。年度最初の3日間は子供たちが素直で、安定した学級づくりに重要な「黄金の3日間」と呼ばれるといい、男性教員は「それがないまま、互いをよく知らない状態でスタートしてしまった。これが学習面よりも一番怖い」と訴えた。

 文科省が21日に公表した全国の教育委員会を対象とした調査(複数回答可)によると、休校中に実施する家庭学習として「教科書や紙の教材を活用」は100%。一方で「同時双方向型のオンライン指導」は5%▽「テレビ放送を活用」は24%▽「教委が独自作成した授業動画を活用」が10%-などにとどまり、各地で指導方法に差が出ている。

 格差の要因は行政だけではない。教育格差に関する著書がある早稲田大の松岡亮二准教授によると、保護者の最終学歴や経済力など社会経済的地位が高い家庭では、ICT環境が整備され、学歴への期待が強く、実際に子供の学力は高くて学習時間も長い傾向があるという。また、社会経済的地位が上層の家庭の割合が高い学校では、公立校でも子供たちに同様の傾向がみられるという。

 松岡准教授は「これらの以前から存在する格差が、休校が長期化すればするほど大きくなる可能性がある。全国一律の対応ではなく、学習への取り組みがより困難な家庭や学校を把握し、そこに加配教員やICT機器などのリソースを多く配分して差を埋める努力をすべきだ」と指摘した。

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