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コロナ禍、善意の情報発信が裏目 デマ拡散で行政も振り回される (1/2ページ)

 新型コロナウイルスの感染が続く中、デマの広がりが深刻な問題となっている。店舗に風評被害を与えたり、買い占めを助長したりするだけでなく、混乱で医療行為が妨げられるケースもある。善意でデマを拡散する人も少なくないとされ、緊急事態宣言の延長で社会不安が高まる今、氾濫する情報の真偽を慎重に見極める姿勢が求められている。(玉崎栄次)

 「事実じゃないんだから数日で収まるだろうと思っていたが、とんでもないことになった」。千葉県旭市のスーパー「フレッシュイイダ」の飯田清専務(42)は降りかかったデマの被害を、こう振り返る。

 3月末、同店をめぐり「新型コロナウイルスの感染者が出た」という誤った情報が同店の近隣住民の間で口コミで広がった。4月2日に開催した創業50周年の大売り出しの客足は普段より少なかった。外出自粛に伴う「巣ごもり需要」で周囲のスーパーで客足が伸びる中、1割以上も客が減少した状況が4月下旬まで続いた。飯田専務は「業者による店内清掃と定休日の冷蔵庫修理が消毒と誤解されたのかもしれない」と肩を落とす。

 デマによる風評被害は各地で頻発している。2月にはツイッター上のデマが発端となりトイレットペーパーの買い占めが起こった。

 インターネット調査を手掛ける「日本トレンドリサーチ」によると、トイレットペーパーの買いだめをした人の9割超が、情報をデマだと認識していた。だが「分かっていても実際に店で売っていない」(40代男性)などの理由で買いだめに走っており、一度拡散すれば収拾は難しくなる状況が浮き彫りになっている。

 ウイルスの感染拡大で逼迫(ひっぱく)する医療分野でもデマが広がった。4月初旬以降、日本赤十字社医療センターをかたり、「東京の日赤総合病院のコロナ病床が満床になり、現場ではすでに医療崩壊のシナリオも想定され始めています」などと訴え、拡散を呼び掛ける文面がSNS(会員制交流サイト)上に出回っている。問い合わせが相次いだ同センターは情報の打ち消しに追われ、本来の業務に支障を来すことになった。

 4月9日には、熊本県の副知事がこの偽情報を県幹部ら約10人に転送。受信した人は「副知事からの情報」として拡散し、デマに警戒を促すべき立場の自治体幹部が逆に翻弄される事態となった。

 デマの拡散は名誉毀損(きそん)や偽計業務妨害の罪に該当する場合もある。長野県警は4月17日、ネット掲示板に自身と無関係の会社名を挙げ、感染者の勤務先と書き込んだ50代の男を名誉毀損容疑で書類送検。男は「噂を信じ、早く皆に知らせたいと思った」と供述した。

 情報犯罪に詳しい甲南大法科大学院の園田寿(ひさし)教授(刑法)によると、非常時のデマは善意で拡散される場合も多く、近年はSNSの普及でコストなしに手軽にコピーできるため、デマが広がる速度や規模は格段に増しているという。

 真偽不明の情報に接したら、一呼吸置き、冷静に見極めることが正しい判断にもつながる。園田教授は「公的機関のホームぺージなどで真偽の確認を徹底すべきだ。国や自治体はビジュアルを多用するなど、伝わりやすい正確な情報発信を心掛ける努力が求められる」と指摘している。

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