ヘルスケア

第2波への備え、5カ月間の教訓を生かせ 大阪の感染症指定医療機関で考える

 大阪府枚方市の「市立ひらかた病院」が新型コロナウイルス感染の「第2波」に備えている。SARS(重症急性呼吸器症候群)やMERS(中東呼吸器症候群)などの感染症治療に対応できる第2種感染症指定医療機関としてこの5カ月間、新型コロナの患者を疑陽性も含め100人近く診察してきた。感染症対策訓練を重ねていたとはいえ、これほど多くの患者は想定を上回った。受け入れ病床数を増やし、自家製で防護服を調達するなど手探りで行った対応の教訓を次の備えに生かしたい考えだ。(菅沢崇)

 予期せぬ混乱 

 市立ひらかた病院の患者受け入れのピークは、大阪府内で感染者が急増した今年3月から5月の大型連休明けにかけてだった。

 特に、府が府内18カ所の保健所からの情報を集めて、市町村の枠を超えて入院先を割り当てる「入院フォローアップセンター」を設立して軌道に乗った4月中旬までは、大阪市や堺市、豊中市など府内各地から病院同士の連絡だけで患者が次々と搬送されてきた。

 「感染症指定医療機関なので依頼を受けたが、普段は年間を通じても、感染症の重篤患者はわずか。症状や重篤さが正確に把握できないまま、患者だけが増加し、医療スタッフの精神状態は、ずたずたになった」

 約350人の看護師を統括する副院長兼看護局長の白石由美さん(60)は、こう振り返る。

 SARSやMARSなどの感染症を受け入れられる感染病床を備えた7階東病棟では、日頃から、緊急入院でも万全の感染対策が実施できるよう、疾患に対する勉強会やシミュレーション研修を積極的に取り入れてきた。ただ、患者の受け入れを始めた2月当初、同病棟で用意したコロナ患者用の病床は8つのみ。4月には病床数は20を超え、看護師も他病棟を閉じて合流させ、52人と倍増した。

 一方、一般病棟でも外来患者には正面入口での検温を実施、入院患者への面会も禁止とした。こうした中で4月16日には、院内の医師の感染が発覚。院内感染ではなかったが、病院は翌日から4日間、閉鎖するなるなど新たな対応に追われた。

 医療対策の問題点浮上

 今回、コロナウイルスが医療現場を脅かしたのは、決定的な治療薬がないうえに、院内感染を防止するための飛沫対策や防護服の調達が難しかったことだ。

 同病院の場合、1日に必要な防護服は約200着。4月には院内感染の防止のため、外来患者への対応や、疑似患者の診療、感染症病棟での使用などが増え、防護服の慢性的な不足に陥った。

 感染管理認定看護師である小林携志さん(44)は調達に奔走した。病院スタッフ数十人が毎夜、数時間かけて自作することになり、使ったのは農業用の大きなビニールシートや酪農用のビニール手袋。さらに90リットルのビニール袋3000枚も購入したという。

 一方、その状況を聞いた枚方市では、4月下旬から在宅勤務になっていた図書館職員や給食係のスタッフらに協力を要請。交代で勤務にあて、急遽、防護服の製作業務を行ってもらい、6月上旬までに約4万着を作りあげた。市危機管理室は「市内の自動車業者なども企業で連携し、顔面の防護シールドなどを無償で作り、防護マスクや消毒液の寄付もあり、対策が一体化した」としている。 

 入院患者は5月末には一時期、「ゼロ患者」を達成した。6月下旬の時点で数人入院しているが、対応は落ち着いているという。

 コロナ対応の難しさは、救急で搬送されても当初は、本当の感染者かインフルエンザなどの疑似感染者かがわからない点にある。同病院がコロナウイルスの疑いで今年1月31日以来、診察した患者約百人も陰性と陽性がほぼ半数ずつだった。

 東京都内で徐々に感染報告が増加する中で、病院スタッフらの緊張は解けないが、小林さんは「これまで危険を恐れ、仕事を嫌がるスタッフは出なかった。患者や家族への精神的フォローの必要性を含め、経験から学んだこの5カ月はこれから役にたてたい」と話している。

 独自の施策で病床確保を進めてきた大阪府では、患者が確認された1月末から2月にかけては感染症の治療に対応できる府内の感染症指定医療機関にある78床を患者受け入れ病床に指定していた。ただ、3月に入ると、病床不足が深刻化、ほかの公立病院や私立病院にもよびかけて病床確保を積極的に進めてきた。7月1日現在で重症患者向けに188床、軽症や中等症の患者向けに1064床を確保している。また、第2波に備えて確保したい病床の数を当面、計1615床と設定している。

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