ヘルスケア

コロナ差別の“素”は不安 「特定の対象にレッテルを貼り遠ざける」

 新型コロナウイルスの感染者が確認された学校や職場、地域の人を過度に警戒する事例が相次いでいる。クラスター(感染者集団)が発生した大学では無関係の学生が教育実習の受け入れを一時拒否され、感染者の少ない地域では、域外からの転校生に登校自粛が要請された。背景にあるのは感染への不安だが、専門家は「特定の対象にレッテルを貼って遠ざけることは、差別につながる」と注意を呼び掛けている。(藤井沙織)

 接触なくても

 「アルバイト先から、しばらく休んでほしいといわれた」。天理大(奈良県天理市)のラグビー部でクラスター発生が公表された8月16日以降、学生2人からこうした相談が同大に寄せられた。教育実習を予定していた別の3人のうち2人は、保護者らの心配を理由に実習先から受け入れを断られ、1人はPCR検査の受診を参加条件とされた。

 どの学生もラグビー部員ではなく、部員との接触もない。「不当な扱いが広まることを恐れる」。同大の永尾教昭学長は会見でこう訴え、並河健・天理市長も「過剰な防衛反応は社会の分断を招きかねない」と冷静な対応を要請。会見が報じられると、実習先は一転して受け入れる方針を示したという。

 差別禁じる条例も

 新型コロナをめぐる過剰な対応は、各地で起きている。7月に沖縄県の米軍基地でクラスターが発生した際には、基地で働く日本人から「学校に子供の登校自粛を求められた」との相談が、全駐留軍労働組合沖縄地区本部に相次いだ。クラスターの発生していない基地まで対象とした学校もあったという。

 全国的に、医療従事者の子供が保育施設に受け入れを拒否される例も多発。茨城県の大井川和彦知事が、医療従事者らへの差別禁止を明記した条例案を9月議会に提出するなど、対策に乗り出す自治体も現れた。

 一方、感染者の少ない地域では、外部からウイルスが持ち込まれることを過度に警戒した。6月には、当時まだ感染者が確認されていなかった岩手県の4市町村が、「万全の対策」「いじめが懸念される」などとして、県外からの転入生に2週間の登校自粛を要請していたことが分かり、文部科学省が不適切と指摘した。

 正しい知識を

 「人は目に見えないウイルスへの不安から、ウイルスに関わる対象にレッテルを貼って遠ざけようとする」。日本赤十字社の災害医療統括監の医師、丸山嘉一(よしかず)氏は、感染症から偏見や差別が生じる仕組みをこう解説する。

 学校や会社などで感染者が判明した場合、どの範囲の人たちを自宅待機とするかについて、丸山氏は「濃厚接触者の調査などからそれぞれの組織が判断するもの」とし、「他人が自粛を求めるべきではない」と指摘。「あの組織(地域)は危ない」などといった風評に振り回されないよう「正しい知識と情報を持って」と呼びかける。

 感染から身を守るために周辺者を敬遠する行為は、どこまでが適正でどこからが差別なのか。近畿大病院感染対策室の吉田耕一郎教授は「新しいウイルスのため、現時点で明確な線引きは難しい」とした上で、「感染者の確認された組織に所属しているというだけで遠ざけるのは合理的ではない。『万が一の感染を考えて』というなら今は誰もが当てはまり、全員が外出を自粛しなければならなくなる。それでは社会は回らない」と話している。

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