かつて教員の指導に児童が反抗し、暴力行為が多発していた大阪市の小学校で作成された、独自の教育プログラム「生きる教育」に注目が集まっている。自分の思いを言葉にし、伝える力を磨いていくことを目的としたこのプログラムのポイントは、国語力の向上と、命や体の大切さを伝える性教育。これによって校内暴力はやみ、落ち着いた学習環境となったことで、児童の学力も徐々に向上をみせているという。(小川原咲)
「思い伝える子供を」
「何かあったら、手が出てしまう児童が多かった」
平成23年に大阪市立生野南小学校に教頭として着任した木村幹彦校長は当時をこう振り返る。
このままではいけない-。危機感を感じ、教師らと話し合いを重ねた結果、浮かび上がったのは、言葉で自分の思いを伝えられず問題行動に走る児童らの姿だった。
「自分の思いを伝えることができる子供を育てるのがまずは必要」。そう考えた木村さんは26年度から当時の校長や教員らと研究を開始。独自の「生きる教育」のプログラムを作り上げた。
その柱は「国語教育」と「性教育」だ。
国語教育は、小学1年で「正しく読む能力」、小学3年で「読んで感想を伝え合う能力」など、学年ごとの発達段階に合わせて狙いを設定。高学年にはディベートも取り入れ、他者の気持ちをくむことや、自分の思いを言葉で伝えることを実践する場面を多く取り入れた。
性教育で教えたのは、自分の体を大切にすることや、他者への思いやり、適切な距離感という。
例えば、小学1年の授業では、水着を着た男の子と女の子のイラストを使用。教師が水着で隠れている部分を「プライベートゾーン」とし、勝手に見せたり、触らせたりせず大事にすることや、他人の体も勝手に見たり、触ったりしないよう伝えた。
このほか、低学年では、プログラムの趣旨に賛同してくれた家族に連れてきてもらった赤ちゃんとのふれあいを通じ、命のつながりやあたたかさを感じてもらうプログラムも。中学年や高学年になると、将来の職業選択につながる職業観を養ったり、恋愛、結婚を考えたりする授業もある。
今後の広がりも
同校によると、こうしたプログラムを6年間続けた結果、26年度に31件あった校内暴力は、令和元年度には0件となり、全国学力調査の国語の平均正答率は同年度、初めて全国平均を上回った。
昨年、学校が全児童に行ったアンケートでは、「授業が分かりやすい」「友達と仲良く過ごすことができている」と答えた割合が9割に上った。同校の小野太恵子教諭は「善悪の判断や自分の思いを伝えあうことを学んだことで、心が安定して暴力がなくなり、落ち着いて授業を受けられる環境ができたのでは」と分析する。
また、プログラムで取り組んできた内容を研修会や公開授業で紹介したところ、保護者や市内外の多くの教師が見学に訪れるようになった。今年度は他校の教諭を含む約20人で研究グループを結成。行ってきた教育をまとめ、将来的には市内の小中学校で指導の参考にできる授業モデルの確立を目指すという。
大阪市教委の担当者は同校の取り組みについて「保護者や地域の人にも授業内容を積極的に公開していることが評価できる」と評価。「『自分の子供には性教育はまだ早い』と考える保護者もいるが、教育の必要性をきちんと学校が伝えているので、取り組みがスムーズに進んでいる。こうしたところは他校も参考にしてもらいたい」と話している。