もし、このケースで住宅資金贈与をするのではなく、その資金で自宅を二世帯で住めるようにリフォームし、長男夫婦と同居していたらどうなるでしょう。父の死亡で宅地を相続した母が亡くなっても、長男は取得者(2)に該当するので、特例の適用は認められるでしょう(引き続き住み続けるなどの要件はあります)。結果的に長男はマイホームも保有でき、かつ相続税評価額の軽減も可能となります。
相続では、最初の相続(今回のケースでは父)を一次相続、次に配偶者(今回のケースでは母)が亡くなった時を二次相続といいますが、一般的に二次相続では一次相続より相続人が減るケースが多くなります。そもそも基礎控除が小さくなる上、配偶者という、相続においては非常に手厚い恩恵を受けられる人がいなくなるため、相続税がかかりやすくなるのです。
経済合理性とライフプランの二本立てで考えよう
前述の「教育資金」しかり、「住宅資金」しかり、大きく取り沙汰された特例ばかりに目が向き、実はもっと使い勝手が良いかもしれない制度や、将来の相続をイメージする重要性に気づかないまま資産を移譲すると、贈与したい人の意図が実現できないとも限らないのです。
もちろんマイホームを持たないことや同居することが良いというわけではありません。逆に小規模宅地等の特例を使いたいがために同居し、嫁姑問題でも起きようものなら本末転倒です。
また、最大の悲劇は、親に十分な贈与をしてもらったものの、親が長生きして老後資金の心配をしなくてはならなくなった場合です。その際、もしあなたの家計がまだ支出の多い時期であったとしても親に経済的な援助ができますか?
節税意識は重要です。その意味で一括贈与の非課税は大きなメリットになり得るでしょう。しかし金額の大きさだけに目を向けるのではなく、他の贈与、あるいは相続時に使える可能性のある制度まで選択肢を洗い出して検討したか、またその方法が親側子ども側双方のライフプランに合ったものか、二本立てで考えましょう。経済合理性を優先するあまり家族の仲が悪くなるくらいなら、税金を払って済むほうがよほど幸せです。
贈与は親が提案してくれることが多いと思いますが、子ども側も「もらえればラッキー」で済ませるのではなく、今の贈与が将来の自分にどのようにかかわるのかも意識し、場合によっては親に必要な情報をアドバイスするなどできるようになってほしいものです。
【新時代のマネー戦略】は、FPなどのお金プロが、変化の激しい時代の家計防衛術や資産形成を提案する連載コラムです。毎月第2・第4金曜日に掲載します。アーカイブはこちら