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“スマート本(ホン)”を1冊いかが? 毎年6万冊売れる長野県民手帳

 長野県が誇るものは数あるが、県民手帳の発行部数6万冊(令和3年版、税別500円)も他県を圧倒する。長野はなぜこんなに愛好者が多いのか。手帳とカレンダーが書店で目立つこの時期にその理由を探ってみた。(原田成樹)

 文房具でなく書籍

 長野県民手帳を発行しているのは長野県統計協会。県の情報政策課統計室の中にある。なぜ、統計協会がスケジュール帳を発行するのか。書記の伊東貴世(たかよ)さんが経緯を教えてくれた。

 県民手帳はもともと、行政の統計に協力する統計調査員に、結果の報告を兼ねて配布していた冊子に、スケジュール帳を付けたものだという。長野では昭和37年版が第1号で令和3年版で60回を数える。分類としては文房具でなく書籍になり、ISBNコード(国際標準図書番号)が振られ、再販価格維持制度で定価も守られている。他のスケジュール帳とは一線を画すのだ。

 確かに全294ページのうち、月間カレンダーと週間スケジュールは約半分で、統計データなどの資料編が45ページ、名簿編が26ページ、各地の祭りなど生活情報編が25ページを占め、細かい字がぎっしり詰まっている。

 県民手帳は47都道府県のうち県だけにあり、神奈川、兵庫を除く41県にある。うち32県は県統計協会の発行だ。他県の調べによると平成31年版の発行部数上位5県は長野、群馬、茨城、埼玉、新潟の順だった。長野は人口当たりでもトップとみられる。

 統計情報が満載

 購入者アンケートはがきの回答では、購入理由(複数回答)は、1位「価格が手ごろだから」(65・7%)、2位「毎年購入しているから」(54・4%)に続き、3位に「統計データが充実しているから」(51・2%)が入る。統計データの充実が売れている理由の1つなのは間違いない。平成27年国勢調査の回答率でも長野は全国4位で、統計調査への協力度や関心が高い県民性といえる。

 もう一つは地元愛が考えられる。残念ながら地元愛を示す統計学的なデータはないが、長野県民のほぼ全員が県歌を歌えるというのは有名な話だ。

 また、購入者の15・5%の職業が「農業」。“農業王国”では、県民手帳をズボンのポケットに入れて農業日誌をつける農家も多い。「酷使しても破れにくい表紙素材」(伊東さん)はこだわりの一つだ。

 啓蒙活動の財源

 統計協会は「統計思想の普及と統計の改善向上」を目的として設立された団体で、県民手帳と各種統計書を発行した収益は、学校などで統計の重要性を理解してもらう活動の財源になる。

 長野では年度が変わると、8月の印刷開始に向け、県の統計室で県民手帳の編集会議を開き、内容や表紙の色、素材などを議論する。サイズや色などに選択肢を持たせるのが最近のトレンドで41県のうち半数以上がバリエーションを持つ。長野では平成30年版から2色を販売するようになったが、他県では透明なカバーの下の紙の裏表を気分によって変えられるタイプも出てきている。

 「売れる理由を聞かれるたびに毎回答えに困るんです」(伊東さん)とはいうものの、売れているのは、他県の良いところを取り入れながら、内容を充実、刷新することでリピーターを離さない編集努力のたまものといってよさそうだ。

 統計情報も生活情報もスマートフォンで検索すれば手に入る時代。伊東さんはその中での県民手帳の存在意義を「情報があふれる中で、この手帳を行動の出発点として使ってもらいたい」と話す。この際、お手元に“スマート本(ホン)”を1冊いかがだろうか。

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