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WHOが警鐘、途上国にワクチン行き渡らず 中露は無償・低価格で攻勢

 【ロンドン=板東和正】新型コロナウイルスのワクチン争奪戦が激化する中、途上国にはワクチンが十分に行き渡らない恐れが強まっている。世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長は「世界で持てる者と持たざる者の格差が拡大している」と警鐘を鳴らしている。

 英オックスフォード大などが28日午後11時(現地時間)に公表したデータによると、27日時点で投与されたワクチンは世界で約8240万回。米国が約2460万回と最も多く、中国(約2270万回)、英国(約790万回)、イスラエル(約430万回)と続く。上位4カ国で全体の約7割を占め、一部の国がワクチンを独占している現状が浮き彫りになった。

 他方、WHOによれば18日の時点で、低所得国でワクチンの提供を受けたのはアフリカのギニア1カ国だけで、しかも25回分にとどまったという。

 WHOはワクチンを共同購入して途上国にも分配する国際的枠組み「COVAX(コバックス)」を通じ、2月からワクチン供給を開始する予定だ。WHOはCOVAXで年末までに20億回分の接種量を確保する目標を掲げる。ここにきて米国もCOVAXに参加する意向を示しており、その拠出金によってCOVAXの調達力が高まることが期待されている。

 ただ、一部の先進国が製薬会社に高値を提示して自国への供給を急いでおり、低価格での調達を目指すCOVAXは苦戦を強いられているのが現状だ。

 ワクチンの供給自体が逼迫(ひっぱく)している問題もある。米製薬大手ファイザーと英製薬大手アストラゼネカはこのほど、相次いで欧州連合(EU)への供給を削減すると発表した。

 こうした中、中国やロシアが途上国への影響力拡大を狙い、「ワクチン外交」を活発化させている。

 中国の王毅国務委員兼外相は今月、東南アジア諸国を歴訪し、自国産ワクチンの供与などを約束。ロイター通信などによると、中国政府はフィリピンやミャンマー、カンボジアなどにワクチン計200万回分以上の無償提供を行う方針だ。ロシアも旧ソ連諸国やアフリカ、南米を中心に低価格な自国製ワクチンの輸出や国外生産を広げる。

 中露のワクチンをめぐっては、治験(臨床試験)の全てのデータが公表されておらず、安全性や効果に疑問を呈する見方も少なくない。

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