ヘルスケア

医療者確保に冷凍保存…ワクチン接種事業本格化、不安な船出

 新型コロナウイルスワクチンの高齢者への接種事業が10日、各地で本格化した。政府は高齢者分の7月末完了に向けて事業の加速を目指し、今週以降、全市区町村に向けてワクチンを大量配送する。ただ、接種現場では、ワクチンを注射できる看護師ら医療従事者の確保や、厳重な温度管理が求められるワクチンの適切な保管に加え、殺到が見込まれる予約の混乱回避など悩ましい課題が山積している。

 厚生労働省の4月7日時点の集計によると、5月10日からの1週間に週別では最も多い約390自治体で高齢者接種が始まる見通し。10日は神奈川県葉山町や神戸市、山口県周南市などでスタートした。

 各地で接種のための予約が殺到する可能性があり、NTT東日本など通信各社は10日、予約を受け付ける自治体に向けた電話発信の制限を朝から始めた。回線の容量を確保し、警察や消防への緊急通報など他の電話がつながりにくくなって支障が出るのを防ぐのが狙いだ。

 各自治体はインターネットでの予約を勧めているが、アクセスが集中して時間を要したケースも。東京都港区の女性(69)は受け付け開始直後から作業を進めたが、予約が完了するまでに2時間程度かかったという。女性は「これで知人や孫に安心して会える」と胸をなでおろした。

 医師確保できるか?

 接種事業の主体となる自治体は、接種目標を達成するため、外部の委託業者へワクチン接種を依頼する所も多い。東京都小平市は2つある集団接種会場の運営を複数の事業者に委託。事業者から紹介を受けた医師10人ほどが接種を行う日もあるという。

 医療従事者を紹介する「MRT」(東京)によると、ワクチン接種に伴う医療機関や自治体からの求人件数は、5月は約2500件だったが、ワクチン供給が本格化する6月は既に3000件近くに及んでいる。現段階では人材紹介の枠はまだあるものの、今後も全ての紹介に応えきれるかは不透明だという。

 同社は潜在看護師らの派遣もさらに進める方針で、看護師らに向けて自治体や医療機関での活動マニュアルを作成したほか、ワクチン接種の研修を実施。担当者は「紹介する人材が安心して働けるよう環境を整えたい」と話した。

 保管にも課題

 自治体は大量のワクチンを無駄なく保存する体制構築にも奔走している。大型洗濯機ほどの大きさがあるディープフリーザー(超低温冷凍庫)を配備するため、東京都杉並区では設置場所の床面補強工事を実施。東京都足立区は約30機を保健所と医療機関へ振り分け、停電などの緊急時に備えて非常用電源への接続工事も実施した。

 もっとも、ディープフリーザーの数には限りがあり、ワクチン発注と保存のコントロールが難しい。専用の保冷ボックスとドライアイスでは約30日、冷蔵庫での保管ではたった5日ほどしかワクチンを保存できずワクチンを無駄にしかねない。ある自治体の担当者は「ワクチンを無駄にしないために、日々使用する量と保管できる量を管理するのは容易でない」と頭を抱えた。

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