受験指導の現場から

成績だけでなく所得にも格差? 「早生まれは不利」は事実か俗説か (1/3ページ)

吉田克己
吉田克己

 我が子が早生まれの保護者なら、「早生まれは受験では不利なんじゃないかしら?」と、一度は不安に駆られたことがあるほうが多数派に違いない。果たして「早生まれは受験では不利」は事実なのか、俗説なのか。事実だとして、その程度はどれくらいなのか?―これが今回のテーマである。

 本稿では、生まれ月によって、以下のように呼ぶことにする。

  • 1~3月生まれ:早生まれ
  • 4~6月生まれ:遅生まれ
  • 7~9月生まれ:やや遅生まれ
  • 10~12月生まれ:やや早生まれ

「遅生まれが優位な傾向は高3まで続く」?

 今回筆者がこのテーマを選んだのは、とある元・塾経営者から、こんなことを聞かされたからである。曰く、「小学生だと、成績上位者の7割は4・5月生まれで、4・5月生まれが優位な傾向は高校3年生くらいまで続く」と。

 「そんなバカな。多少、遅生まれが有利であるにせよ、7割は極端だろ」というのが、これを聞かされたときの筆者の率直な感想であり、「ならば、一度調べてみるか」と、ネット上を渉猟したことが本稿につながった。

 数十年前に遡るが、筆者が小学生の時の、学校での成績上位者(≒私立中学受験者)の顔ぶれを思い起こしてみると―、小6全体で40人前後いた男子の中で中学受験者が6~7名、うち4・5月生まれは(筆者を除く)3名であった。たしかに、遅生まれに偏っている。

 一方で、生まれ月と成績との関係がふと気になった高1の時に、成績上位者20名の生まれ月を調べてみたことがあるのだが、この時は早生まれがちょうど4分の1であった。もっとも、筆者が通っていたのは、偏差値50台の中高一貫校である。中学受験時に同じ関門をくぐった同質集団内では、生まれ月による偏りは徐々に縮まっていくということなのかもしれない。

早生まれの不利は「永続的」

▼「相対年齢効果」を検証

 じつはこの分野には、知る人ぞ知る(らしい)有名な論文がある。川口大司・一橋大学准教授(当時)による「誕生日と学業成績・最終学歴」と題された2007年の調査論文(*1)である。

 実年齢の違いが学業成績や運動成績などに与える影響は「相対年齢効果」という。同論文は、その相対年齢効果が最終学歴にまでおよぶのか、(1)国小中学生を対象とした国際比較教育調査の結果、(2)国私立中学校での相対年齢の高い者の在籍割合、(3)四年制大学の卒業率を―をもとに検証している。

 同論文が、その「はじめに」(まえがき)で示している検証の動機はこうである。

「相対年齢が学業成績に影響を与えているとしても,その影響が児童・生徒の加齢に従って減衰していくのであれば,長期的には重要な問題ではない。しかしながら,小学校低学年のうちに経験した不利さが後々まで影響するならば,それは看過できる問題ではない」

 「はじめに」には調査・分析結果の要約が書かれており、それらのうち特に重要と思われる点を抜き出したものが以下である。

  • 小学3・4年生と中学2年生の学業成績に関する分析結果は,算数・数学と理科の双方において,4月2日生まれ(遅生まれ)のほうが4月1日生まれ(早生まれ)よりもテストスコアが偏差値にして2から3だけ高い
  • 男子算数・数学のテストスコアに関しては,小中高ともに成績上位層では相対年齢効果が見出されない
  • 相対年齢は国私立中学校への進学行動にも影響を与え,4月2日生まれ(遅生まれ)のほうが4月1日生まれ(早生まれ)よりも,約2.5%ポイント国私立中学校への在籍率が高い(中略)。これはサンプルの国私立中学校在籍率が5.5%であることを考えると非常に大きな差である
  • 相対年齢効果の存在は頑健に確認され,その効果は永続的であり,最終学歴にまで影響を及ぼしている

 上記4点のうち3点目までは、概ね予想の範囲内であろう。同論文の問題意識から言えば、むしろ気になるのは4点目ではないだろうか。

 ただしこの点に関しては、2点目に「男子算数・数学のテストスコアに関しては小中高ともに成績上位層で相対年齢効果が見出されない」とあり、男子最上位層の理数系科目は例外のようだ。上位とそれ以下では相対年齢効果の出方に違いがあるということだろうか?

▼トップレベルでは影響が出にくい

 実際、2013年に発表されたある論文「小学生から大学生までに現れる生まれ月分布の偏り」(*2)には、その傾向がこう書かれている。

「医学部入学生においては早生まれの割合が少ないという現象は見られず、特に早生まれの影響というものは見られない。しかしながら、国・公・私立大学を問わず医学部については入学難易度が高いため、今回調査対象の大学とは状況がかなり異なっている。大学進学率がほぼ5割となる状況の中で、大学入学における早生まれの影響は入学難易度が低めに位置する大学でより顕著に表れる現象であるかもしれない。これはJリーグ・サッカー選手で見られた、トップ・ チーム(現在のJ1)よりもサテライト・チーム(現在のJ2)で早生まれの影響が顕著であるという結果と類似しており、2番手に属するグループで影響が大きいことを示しているのかもしれない」

 学業成績も運動能力と同様、相対年齢効果は先頭集団よりも第2集団以下でより顕著なものになりやすい、というのがこの論文の指摘だ。

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