ライフ

没後40年の「横溝ミステリー」が欧米で翻訳続々 消えゆく日本の上流社会を求めて (2/2ページ)

 〈『Honkaku(本格ミステリー)』は、驚きの展開と突然の事実の暴露が盛りだくさんなモダン・スリラーよりも、むしろチェスと共通するところが多い〉。記事は日本独自の本格ミステリーの特徴に、読者に常に推理の手がかりを与える「フェアプレー」精神を挙げる。横溝は、英作家アガサ・クリスティーらと比べても、難解な密室犯罪を描いた作品がはるかに多いという。そんな知的ゲームとしての魅力を指摘しつつ、『犬神家の一族』を例に、近代化の波で消えてゆく日本の上流社会を詳細に描き込んでいる、とも評す。モジャモジャ頭によれよれの羽織はかま姿で、映像作品でも広く親しまれた名探偵・金田一耕助という〈大衆文化の象徴的存在を作り出した〉功績も紹介している。

 情報環境の変化

 日本国内では映画版のヒットもあり、1970年代に横溝ブームが起きた。KADOKAWAから出版されている作品の累計部数は5500万部を超える。人気作家であっても没後は年々部数が減っていくのが常だが、横溝作品は英語とイタリア語だけでなく、フランス、ドイツ、スペイン、ポルトガルの各言語にも訳され、未知の読者が多い欧米で“発見”されている。

 エンリコ・パオリーニさんはその魅力を「欧米の読者にとって、とくに戦前の日本の社会や思想、風景は魅力的で、『ミステリーの中のミステリー』となり得る。小説を通して遠い日本を訪問できる。横溝や乱歩らのように怪奇的な場面がある探偵小説は珍しく、驚きをもって受け止められているのでは」とみる。

 ネット社会の現在、海外の情報や書籍は以前より手軽に入手できる。結果、世界中の編集者が新作、旧作を問わず各国の面白い作品を発掘しやすくなった。新型コロナウイルス禍を受けて在宅で過ごす時間が長くなり、読書に対する需要も増している。

 ミステリー小説に詳しい文芸評論家の細谷正充さんは、そうした環境の変化が横溝の再発見の大前提にあるとした上で、「謎解きの面白さやキャラクターの魅力はもちろんだが、横溝作品は、地方の土着的な要素と近代との相克も描いている。人間関係はおどろおどろしく、今とは別世界の趣。その古めかしさも含めて、欧米の読者が求める日本趣味に合致した面があるのかもしれない」と話す。

Recommend

Ranking

アクセスランキング

Biz Plus