ライフ

“聖農”の精神を若い世代に…農業の楽しさや大切さを伝える「草木谷を守る会」

秋田・潟上 「草木谷を守る会」事務局長 藤原直人さん(51)

 秋田県民から“聖農”と慕われる石川理紀之助(1845~1915)の精神を受け継ぐNPO法人「草木谷を守る会」の事務局長として、若い世代に農業の楽しさや大切さを伝える。

 理紀之助は農村指導者としてその振興に尽くし、全国に例のない農業の一大祭典「種(しゅ)苗(びょう)交換会」の創始者としても知られる。

 自らの農業理論実践のため現在の潟上市の山峡のやせ地を開墾したのが「草木谷」だ。「今年も親子や若者ら約60人が参加して、5月下旬に田植え交流会を開催しました。例年なら参加者は東京など県外からも含め130人以上ですが、今年はコロナ禍で…」と残念さをにじませる。

 それでも「参加者はワイワイガヤガヤ楽しみながら酒米の苗を植えました。秋には稲刈り交流会を開きます」と笑みがこぼれる。

 「収穫した酒米は地元酒蔵に委託して清酒『草木谷からの爽風(かぜ)』を醸造・販売し、会員にも配るんです」

 草木谷では、近くの市立大豊小の児童が総合学習で食用米も栽培している。

 「無農薬・無化学肥料で栽培し、里山の保全や下流の八郎湖の水質改善につながることを学んでいます」

 ただ「山峡の田んぼだけに、場所によっては腰までぬかるむんです」と苦労話も打ち明ける。

 農業や環境保全の実践活動の一方、子供たちが若い経営者や農家らの体験を聞いて地域に眠る資産を探る「リキノスケ未来塾」も催している。「石川翁が集落ごとの人口や産物、風俗などを詳細に把握した適(てき)産(さん)調(しらべ)の現代版ですね」

 県立金足農高を卒業して東京で就職したが、母親が倒れて潟上市に戻り、現在は同市の非常勤職員として草木谷近くの市郷土文化保存伝習館(石川翁資料館)の運営などにも携わる。

 「何もない秋田が大嫌いだったのが、会の活動で秋田に来た東京の若者が、どこに行っても感動するのを目の当たりにして、秋田の良さを教えられ、今では秋田が大好きになりました」

 収穫後の稲ワラは秋田市の大森山動物園に贈り、お返しにもらうゾウのフンのたい肥を田んぼの肥料にしている。無農薬だから益虫や野鳥が害虫を食べてしまう。「こんな循環型の完全有機栽培米をもっと地域に普及させ、首都圏などで販売できれば」と意気込む。

 さらに「草木谷近くの空き家をグリーンツーリズムの施設にして、石川翁の思いを1人でも多く次の世代に伝えたい」と夢はふくらむ。(八並朋昌) 

Recommend

Ranking

アクセスランキング

Biz Plus